2016年2月23日火曜日

ミニうり坊 作品と読者をつなぐ手書きパネル


手書きでパネルをつくる

ちくま文庫『命売ります』三島由紀夫著の仕掛け売りを始めたとき、文庫担当は出版社から送られてきたパネルを何の不満も持たず使用していました。でも、使われていたコピーは帯に書きこまれたものまったくと同じでした。

多面展示した作品の表紙はお客様の目に自然に飛び込んでいき、視覚的に作品のイメージを植え付けてくれます。表紙に使われているフレーズも無意識のうちに頭に入りこんでいるものと考えています。

表紙自体がアイキャッチャーとなり、作品そのものをイメージとして紹介してくれます。ですから、表紙とは違う情報をインプットして、その作品を手に取ってもらうことがPOPの役割だと私は考えています。

だから、POPには「表紙に書かれているフレーズは絶対使わない」ことをポリシーとしていましたので、これまで一度もしたことがないし手書きのパネルづくりに挑戦しました。



出版社の方がFacebookに投稿した文章がとてもよくこの作品を表現していると思いましたので、それを参考にしてコピーを考えました。

文豪の作品は実は面白い
まともに読んで面白い

         又吉効果というべきか
文豪作品の読み直しが始まった


三島由紀夫を文豪として表現しました。文豪=高尚というイメージがあります。読むのに二の足を踏むような方が多いはずなので、実は面白いというフレーズで印象を和らげます。

さらにその言葉を重複して使うことで、難しくない、親しみやすい作品としてのイメージを持っていただきたいと考えました。

芥川賞を又吉直樹氏が受賞しで圧倒的な部数が動いて文芸復活のイメージを作ってくれたことが背景にありました。そこから又吉効果という言葉を使いました。

文豪(=とっつきにくい)の作品にお笑い芸人の名前を使うことによって「手軽く読めるもの」という印象が与えられるのではないかと考え、読み直しが始まったというフレーズで文芸作品の新しいムーブメントを想起させたいと思いました。

そんな思惑で作ったこのパネルは思いの外当たりました。『命売ります』短期間のうちに300冊以上の販売実績を作ってくれました。

パネルもPOPも同じですが、イメージ通りの仕上がりにするためには気を使うことが多いです。失敗して書き直すのはとても嫌なものです。誤字や文字のはみ出しに細心の注意を払い、失敗しないように書いています。

手書きのパネルは色画用紙やマジックの選び方で色遣いが自由に楽しめます。相当気を使って書くためなのか、印刷仕様に比べて手書きパネルは見てくれる人に温かみが伝わるように感じます。

失敗せずにイメージ通りに完成でき売上が好調に推移すると、パネルのコピーが作品と読者をつなぐ役割を果たせたように感じられて、手書きパネルをつくる快感にハマってしまいます。そんなこともあって、その後何枚も書くことになりました。



2年目女子の仕掛け売りとコラボ

入社2年目女子は実用書を1年経験し、文庫担当に変わりました。最初はジャンルが変わって戸惑いが感じられたようで、新刊の事前注文や追加注文の部数のつけ方にばらつきが見受けられました。

ベテラン営業マンにおすすめされるとなんでも付き合ってしまう危うい印象も感じ取れました。彼女なりの仕掛け売りができるようになるにはまだまだ時間がかかるとその時は思っていました。

担当が変わって6か月が過ぎたころから文庫というジャンルに慣れてきたようです。自分なりの感覚で仕掛け売りに挑戦し始めていますし、だんだんと成果が表れてきたように感じます。

二年目女子の仕掛けと私が書いたパネルとのコラボで多少なりとも成功事例を作りましたので、その事例を少しご紹介しましょう。


2014年の12月に発売された文春文庫『侠飯(おとこめし)』を前任の文庫担当が売り伸ばしていました。

「何で売れているの?」と聞くと、「わかりません」という返事が返ってきました。私自身も何故売れているのかはよくわかりませんでしたが、
「やはり黒系の作品が良く売れるご当地銘柄なのだろうな?」と言うと、その言葉に反応してその気になったようです。

新刊発売から早い時期に追加注文をしましたので、出版社の担当からは「どこにもそんなに売れている店はありません」と言われたそうです。もしかしてオリジナル商品にできるかもしれません。

その時点では重版もままならず、少ない在庫をやりくりしながら売り伸ばしていきました。仕掛け売りを始めた時に、出版社の担当者から送られてきたPOPにはこんなコピーが使われていました。

読んでいるうちに思わずお腹が空いてくる
グルメ小説の新ジャンル ここに誕生!!

売場でのちょっとした立ち話で担当者がその気になり、売り伸ばしてしまった作品はわりと多くあります。その気になるポイントは雑談に隠れているのかもしれません。

『侠飯2 ホット&スパイシー編』が1年後の12月に発売になりました。今度は前任の担当から引き継いだ2年目女子がこの作品を売り伸ばすことになりました。

前作の実績に応じて事前指定を申し込むと、新刊発売の前に前作がまとまった数で入荷しました。数日後に搬入された新作と合わせてテーブル1台での展開がスタートしました。その時、仕掛け売りに欠かせないパネルが届いていませんでした。

2年目女子にパネルを作ってほしいと言われて、私の出番がやってきました。前作のPOPのコピーをちょっと手直しして色画用紙に書き込み、それをラミネート加工して、使用済みのパネルに張り合わせると、手書きのパネルは簡単に出来上がります。




新スタイルのグルメ小説
ここに誕生

読み進むうちに
思わずお腹がすいてくる


前作を横2列、縦3列の6面にし、続編を3列×3列の9面で陳列して、それなりのボリューム感を演出しました。

爆発的に売れているわけではありませんが、最初の作品が思いのほか売れ行きがよく、追加注文を繰り返しました。その勢いに引きずられるように続編も売れていきましたので、相乗効果が出たような形になりました。





その後、2年目女子の文庫担当は、出版社の担当者からおすすめされて『シャッター通りの死にぞこない』双葉文庫を100冊仕入れて仕掛け売りをスタートさせました。

この作品は2015年7月に発売されたものですが、初速は良くなくて、8冊入荷5冊返品というデータが残っています。

発売から2か月過ぎた頃から出版社の若手女子がしきりに仕掛け売りをすすめてきました。前任の担当は大きな部数での仕掛け売りは断ったようで、30冊という遠慮がちな部数で対応していました。

それなりに売れているようでしたが、小規模の仕掛け売りでは販売部数はあまり伸びていません。

2016年になって、出版社の若手女子から再度の仕掛け売りの提案がありました。前任から文庫担当を引き継いでいた2年目女子は、何店舗かの販売実績を聞いて売り伸ばしが可能だと判断したようです。

提案を繰り返す出版社営業担当の粘り強い営業スタイルも面白いですし、担当者によってそれに対する反応が変わってくることも傍で見ていて面白いと感じました。

1月中旬に文庫の拡販ステージでテーブル1台展開が始まりました。たまたまその場所で顔を合わせた時、「パネルが届いていないので書いてほしい」と2年目女子が泣きついてきました。

本を事務所に持ち込んでパネルのコピーを考えていると、著者が『侠飯(おとこめし)』と同じであることに気づきました。そこで手書きのパネルは似たテイストにしようと思いました。

本の表紙や中身をチラ見して、パネルのコピーとして使えそうなフレーズを捜しました。表紙を裏返して見ると、伝説のPOP職人のコピーが帯に書き込まれていました。面白いと感じましたので、そのフレーズを手直してサブコピーとして使わせていただきました。


 


 爆笑アウトロー小説
   ここに誕生

心に何か残る読書がしたい方お断り
ただただ面白いだけの小説です


「○○小説ここに誕生」というメインフレーズを両方のパネルに書き込んで統一感を出し、サブコピーでおすすめの雰囲気を出す作戦となりました。

この時点でそれぞれ違う場所に商品展開されていたものを隣り合わせの位置に移動させ、相乗効果をねらって陳列し直しました。

「黒系の作品はよく売れる」という言葉はこの作品にも当てはまりました。週売20を超える状況が続き、追加注文を繰り返すことになりました。

そして、充分な在庫が揃い売り上げが好調に推移していった時点で、2年目女子は「この作品だけ入口の拡販スペースに移動させ、週売30以上をめざす」と言いだしました。

100冊スタートで様子を見て、いけると感じたら積極的な展開に変えていく。こんなところに彼女なりの仕掛け売りの今の到達地点が見えてとても興味深く感じました










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