2016年1月18日月曜日

『成功のバイオリズム「超進化論」』に出合う

作品と読者をつなぐ言葉

書店員がお客さまに対するおすすめ本を決める時には「本を読んで、その本の良さに気付き、その良さをお客さまに伝えたい」という思いが基本になっていると思います。

書店によっては年末に従業員が選ぶおすすめ本ランキングを発表しているところもありますし、読者が本を選ぶ際のヒントになっているとも聞いています。

また、書店員がある本を仕掛けて売ってみようと考える時、そこには何かしら動機づけになるきっかけがあるはずです。

新刊案内を読んで「面白そう」と感じたり、本の表紙を見て「本が売ってくれと言っている」と感じたり、出版社の担当者の説明に納得して「これは絶対売れる」と確信したり、本にかかわったときのそんな心の動きが書店員に売ってみようと思わせるのです。

「本は読むものではない。売るものだ」とうそぶいていた自分は、何を基準にお客さまにおすすめする本を選んでいるのだろうか。
都心の店にいた時に5年分のベストセラーランキングを集計して、作品ごとに何がきっかけで売り始めたのかを記録したことがあります。その結果は6種類に分類されました。

「類書の実績のデータがある」
「初速良好に付き追いかける」
「戦略的に仕掛ける」
「売らなくてはいけない本社企画」
「営業マンとのお付き合い」
「他店のマネをする」

「これを仕掛けたら面白そうだな」という気にしてくれる作品もありましたし、出版社のメンバーとの強力な関係性ができて「さあ、売るぞ」と言って仕掛け始めたこともありました。

どのパターンで仕掛けるにしても、売れそうな予感を感じてスタートした作品はとてもよく売れました。売れそうな予感に従って作成したPOPのコピーのお陰で劇的な販売数を記録したこともありました。

本のタイトルを見て売れる商品展開がイメージでき、POPやパネルがうまく工夫できると、多くの作品が週間ベストに連続してランキング入りしました。

『成功のバイオリズム「超進化論」』が発売されました。出版社の担当者に事前に新刊案内のチラシを見せられた時、タイトルを見て、ターゲットとする購買層がイメージできませんでした。

一つの作品のために出版社を立ち上げ、リヤカーを引いて全国行脚をしている。
成功者500人にインタビューしてそこに法則性があることを発見した。

そんな説明を受けても、著者を知っている人が買うのだろうなというイメージしか浮かんできませんでした。そんな状況では積極的な数で事前注文をする気にならず、ビジネス担当に話を振ってしまいました。その時の事前注文は10冊になりました。

新刊の案内を受けた時点で、本のタイトルから購入されるお客さまを想像できる場合があります。そうすると、どの場所に、どのくらいのボリュームで陳列すればいいのか、その本の売り方と売れ方がイメージできます。

売れ方のイメージが湧いて、お客さまの心に響くようなPOPのコピーが書けるとよく売れていきます。残念ながら『成功のバイオリズム「超進化論」』との最初の出会いではそうした流れにはなりませんでした。

そうこうしているうちにその作品の発売日がやってきて、実際に手に取って本の表紙を見たとき、何か心に引っかかるものを感じました。売れるイメージは湧かなくても、なぜかほっとけないという気にさせる作品がたまにあります。

心に刺さった棘を取りたくて、「これちょっと読んでみるよ。読んで売れる商品展開のイメージが湧いて来たらまた相談するから」とビジネス書の担当者に言って、店に送られてきていた見本を持ち帰って読むことにしました。

作品自体は完結していて、著者や著者の行ったことを知っている方は必ず読むだろうと想像できるし、内容にも熱いものが感じられます。ただ、お客さまが表紙を見てこの本を手に取ってくれるとは思えませんでした。

何が欠けているから売れる商品展開のイメージが湧いてこないのか。その隙間を埋めるには何が必要なのだろうか。お客さまの心に響く言葉が必要だし、それを見つけ出さなければならないと感じました。

Facebookにはこの作品に関する投稿がたくさん出ていました。どの投稿を見てもとても熱い文章で語られています。それらの文章の中から心に引っかかる言葉をつなげていくとPOPのコピーが浮かんでくるのではないだろうか。

あきらめなければ
人生は好転する

たった一冊の本を届けるためだけに出版社を創業し
リヤカーを引いて全国各地を行脚した熱い男
成功者500人にインタビューして法則を発見した

現状に何か問題を抱えている方や、好転するきっかけが欲しいと考えている方々は多くいるだろう。そんな方向けのメッセージとして考えた時に出てきた言葉なのですが、まだまだこなれていないように感じます。

この作品の内容の一部を切り取っただけの印象が強いですし、表紙に使われている文章をPOPに使うのは自分のスタイルではありません。まだまだだなという思いが残ってしまいました。

ただ、売れる商品展開のイメージが少しだけ感じられるようになりましたので、連休明けにビジネス書の担当者と相談してみようという気になりました。

いざ店に出てみると10冊積んだはずの作品は影も形もありません。どうなったのか聞いてみると、発売当日に10冊売れてしまったということでした。商品が無くては意味がありませんので、POPは書きませんでした。

ビジネス書担当は20冊手配したと言っていましたが、それでいいのだろうかという思いも浮かんできました。何か引っかかるものがあるので、テーブルを使った多面展開でお客さまにアピールしてみたいと提案しました。

ビジネス担当もその気になって出版社担当者と交渉し、100冊の注文に対し、直送で翌日店着させるよう手配してくれるということになりました。

翌日の午後、店着した100冊をビジネス書担当が品出したので、事務所に入ってPOPを書いていると出版社の担当者がやってきました。

出版社担当者はA3サイズのパネルを持参してくれましたが、そのパネルのコピーから受けるイメージでは、お客さまが作品を手に取ってくれるとは思えませんでした。

お客さまにこの作品を手に取っていただくためには何が必要なのか、作品とお客さまとをつなぐ言葉って何だろうか、そんなことを二人で話していたら自然と言葉が出てきました。

「スポーツでもビジネスの世界でも、成功者はみんなこのバイオリズムに従っている。停滞期、活動期、過渡期、成長期のどの時期に何をなすべきか理解できれば、自ずと道は開けるのではないだろうか」

このセリフを使って手書きのパネルを作ってみました。出来上がったパネルを見て、これなら作品と読者をつなぐ言葉になるかもしれない。もしダメでもまた考え直せばいいと思いました。


「まずはやってみなはれ」の境地ですので、まだ確信には至りませんが、ビジネス書担当者が100冊展開のパネルとして使ってくれました。今はこのパネルの言葉がこの作品の未来を切り開く第一歩になることを期待しています。

「人生は絶対こうなる」
ということはないが
    やっぱり法則はある
   
スポーツでもビジネスでも成功者はこのバイオリズムに従っている

    どの時期に何をなすべきか理解できれば自ずと道は開ける


2016年1月13日水曜日

書店発ベストセラー 久々の挑戦 三報

追加注文が仕掛けの命運を決める

『自分を変える習慣力』の仕掛け売りでは、「1つの習慣を変えたらすべてが変わった」というフレーズからルーチンという言葉を連想して、「よいルーチンの確立で成果は飛躍的に変わる」というキャッチコピーが浮かんできました。

スポーツ選手が試合に臨む時のルーチンが確立すると成績が上がる。それをPOPで紹介すれば売れるというイメージを得て、12月2日から100冊展開のボリューム陳列が始まりました。

最初の週は、4日分の売上でビジネス週刊ベストの3位にランクインしました。次週の12月6日~12日は7日分の稼働でしたので期待をしていましたが、予想を超える週売30以上をクリアできました。

13日までの直近1週間の販売実績を見ると、さらに数字は上がって週売30台後半が取れています。水木がちょっと低調だったので心配をしましたが、週末にブレイクしていました。

2週目に入ったところで日別の販売データをチェックして、80から100冊程度の追加注文をしてほしいと担当者に伝えました。すると、80冊の注文履歴がシステム上のデータに出てきました。なんだ、最小部数かとちょっとがっかりでした。

仕掛け売りを始めてすぐに勢いよく売上が伸びたのは、POPのコピー=お客様へのメッセージとともに、ボリューム感でこの作品をお客様にアピールできたからです。そのボリューム感は売れ行きの良さと比例して減っていきます。

そのままにしておくと「ボリュームが減ると売上は劇的に下がる」という現象が起きてしまいます。だからこそ必要な時に必要な量が揃うように商品手配ができる人を仕入れの名人と呼ぶのです。

ボリューム感が少なくなるとチャンスロスの可能性が出てきますので、追加注文が入荷するタイミングは非常に重要な要素となります。

早く入荷しなくてやきもきしていた追加注文は、想定していた入荷日より4~5日遅く17日に入荷しました。週売は安定した数字が確保できていますが、ボリュームが復活した木、金の売上が貢献しています。

仕掛け売り開始以来4週連続で週売30以上をクリアしました。年明けにはパネル及びPOPをお正月用に変更しようと当初は考えていましたが、「いい流れの時は何も変えない方がいい」という原則がありますので、どうしようか迷って未だ変えずにいます。

新刊配本が30冊、仕掛け開始で100冊注文、二度目の追加注文では80冊入荷、合計210冊入荷の『自分を変える習慣力』も、年末年始は流通が止まるため入荷はなく、年明けには在庫が随分と減ってきました。

今度は担当者が100冊の追加注文をしました。一時期、40冊台まで在庫が減りましたが、直送の手配をしてくれた素早い対応のお陰で何とか持ちこたえ、またボリュームが復活しました。

仕掛け売りの広がりをつくった元塾生の店でも好調な売上が続いています。
クリスマス明けに40冊入荷して仕掛け売りがスタートし、30日頃からコピーして送ったパネルとPOPを使用されて売上が上昇しました。

4日に手配した追加注文がその週のうちに入荷して、3連休の売上がさらにブレイクしています。この追加注文の判断が実を結んで、ボリュームを維持しながら販売する形が整い、2週目は1周目の売上を大きく上回りました。

陳列のボリューム維持は仕掛け売りの成功のカギを握ると言われるほど重要なので、とても良い判断をしたと思います。

次のステップでは売上の上昇に見合った陳列スペースと商品のボリュームの拡大ができるかどうか、どこまで売上を伸ばせるのか、連続ベストテン第一位が何週続けることができるのか、そんなところに注目をしています。

スタートのロットで販売量が変わるのは事実ですので、「文庫新書の仕掛けは150冊からだな」というセリフをこれまでよく使ってきました。確かにスタートのロットはとても大切だと思います。

それでも仕掛け売りをスタートさせた後で、販売実績を見て、先々の売上を予測して行う二度目の追加注文の精度はもっと重要なのかなと考えています。


ボリュームをアップして一気に売上の速度を上げていけるのか、それともボリュームが下がってトーンダウンをしてしまうのか。仕掛け売りを成功に導くのは追加注文の精度の高さなのです。

2016年1月6日水曜日

販売ステージの明解性をつくる

文庫の販売ステージを考える
年末に元塾生を訪ねた時のエピソードの続きです。ビジネス書の商品展開の話しの後で、元塾生から「1月から文庫を見ることになっていますので、文庫の販売ステージも見てほしい」と言われました。

エスカレータから上がってきたすぐの曲がり角に文庫の新刊コーナーが設置されていました。その裏側にベストテンコーナーと書評コーナーがあり、その右側は大型TVで映像化作品のDVDを流して、映像化作品のコーナーができていました。

フロアの一番端にあるエレベータ前の位置に文房具が置いてあり、文庫の新刊台と店内通路を挟んだ向かい側が新書のコーナーです。その隣が文庫売り場でしたので、文庫の新刊コーナーは独立した空間となっています。

奥の壁に向かって設置された文庫売り場の棚にはエンド平台があり、その前の店内通路に面したところに比較的大きめの販売ステージがありました。そこに置かれているのは売れ筋の作品のようです。

本来文庫の多面展示や大量商品の陳列は入口近くの独立したコーナーがいいですし、新刊コーナーと各文庫の棚は近い方が商品の連動をつくりやすいと思います。どういうわけか、この店ではその位置が逆になっていました。

新刊は発売日によってローテーションをつくると効率よく販売できるのですが、この店では発売日から一か月間場所を固定して商品を展開しているようです。

この配置はおかしいと元塾生も言っていましたが、こうした場所を入れ替えるのは労力がいるし、これまでこの棚を作ってきた背景もあることなので、すぐに入れ替えるのは難しいことのように思います。

文庫のスペースをどのように構成するかは非常に大切な要素ですし、ゾーンごとに同商品を配置していくのかでほんの探しやすさが決めってきます。もちろん商品を並べるだけでなく、POPやパネルによる商品の見せ方も大切な要素となってきます。

全般的に多面展示が少なく、どの販売ステージでも何を意図して商品が並べられているのか、見た目で分かりにくい陳列のスタイルになっているようです。まずは販売ステージごとの明解性をつくることがこの店の優先課題なのだろうと思います。

明解性のつくり方
文庫ゾーンに立って最初に見に飛び込んでくる販売ステージに『仮面病棟』のタワー陳列がされていましたが、タワーの隣には違う商品が並んでいます。

元々、タワー陳列そのものからは商品がとりにくいので、隣に6面とか9面とかの多面展示を作ってセットで陳列することが主流です。脇の平台陳列から商品を手に取ってもらって販売するのが普通なのです。

これでは売りにくいと判断したのか、他の場所にもう1か所『仮面病棟』のコーナーができていました。

これまで自分が関わった店ではテーブル1台で一点の多面陳列を原則として、1000冊越えの作品をつくることに挑戦して、何点もの作品で単店1000冊越えを成功させてきました。

3メートルぐらいの大きさの販売ステージでは、8面と6面の組み合わせで12点の多面展示ブロックをつくりましたし、テーブルの組み合わせを使った販売ステージでは、1点で1台15面を基本におすすめ作品のブロックをつくりました。

多面展示のブロックをつくることによって、その場の性格付けを明解にし、商品のボリュームとパネルと手書きPOPで訴求力を高め、2度見3度見でその気にさせる作戦を行うこともできました。

気の利いたPOPのコピーが書けると、それを見て作品を手に取るお客さまが多くなりますし、楽しみにしてくれるお客さまも現れました。商品を並べることとPOPで分かりやすくすることはわかりやすい陳列のための大きな要素です。

この店の売り方はそうした大量陳列・大量販売の売り方と一線を画して、単品を大事に売るような売り方のように見えますので、販売ステージは複数の商品の組み合わせでブロックごとの明解性をつくる必要があります。

ただ、ちょっと見た限りでは大きなステージをブロックに分けて、ブロックごとの明解性を出すような商品の陳列の仕方はできていないようです。他のジャンルと同様に商品の並べ方が散漫な印象を受けてしまいます。

明解性づくりの提案
『仮面病棟』のタワー陳列の裏側には面積の半分を使って獅子文六作品が並べられ、もう半分はミステリー系の作家の作品が並べられていました。違う種類の作品群でステージを分割するとその場の明解性が損なわれます。

自分がもしこのステージをつくるなら、隣には同じちくま文庫の三島由紀夫作品を並べます。同じちくま文庫の作品というくくりで装丁の統一感も感じられるし、文豪の復刊作品としてもその場の明解性を持てます。

『命売ります』の拡販を始めたとき、出版社の作ったパネルは帯のコピーとほとんど同じ内容でしたので、手書きのパネルを作りました。パネルのコピーは下記のようになりました。とても気に入った手書きパネルができて累計300冊以上の販売実績がつくれました。

文豪の作品は実は面白い
まともに読んで面白い

又吉効果というべきか
文豪作品の読み直しが始まった

このパネルは獅子文六作品にも使えるような気がしますし、コーナーに置いてある商品の意味合いを表現する看板の役割も果たせます。

三島由紀夫作品は他にも重版されている作品があります。二人の作家の中から売りたい作品や売れそうな作品を中心にして大きく展開し、他の作品と一緒にコーナー化すると、そのステージ自身が文豪作品というくくりで自己表現するようになります。

商品の属性としての統一感と、それを表すPOPやパネルの明快さがあると、そのステージそのものの明解性を作ってくれます。ステージごとの明解性を多く作ることで、その店の主張がお客様に伝わっていきます。

この店のある地域はグレードが高い商品がよく売れる地域ですので、一緒に並べたら相乗効果が現れてもっと売れるのではないかと思います。

棚前のエンド平台は小さ目ですし、目線の位置に棚からはみ出る形で面陳什器がついていますので棚とは分断されています。そうした場合はエンド平台だけで一つの世界をつくるような形をするとよいと思います。

「このミステリーがすごい2015」の外文第一位の『悲しみのイレーヌ』は今が売り時です。昨年の『その女アレックス』も大爆発しましたし、今でもまだまだ動いています。他にも何冊か文庫が刊行されています。

「ピエール・ルメートル作品」は大きな販売ステージの一角に並べられていました。それもどの作品も同じ面数で、陳列の差別化ができていません。本来『悲しみのイレーヌ』が今は売り時なのに、他の作品と同じ展開では並べる意味が半減してしまいます。

『悲しみのイレーヌ』は「このミステリーがすごい 外国文学第一位」なのです。その価値を伝えることが店の担当者の仕事ですし、わかりやすく陳列するには面数を他の作品よりも多くすることが必要です。

この時期は『悲しみのイレーヌ』の多面展示が半分、残りの半分をその他の作品で埋めて「ピエール・ルメートル作品」でエンド平台をつくるべきです。旬の作品を中心にしたコーナーづくりはお客さまへの絶好のアピールポイントになります。

見た目で旬の作品が何かを理解できる陳列が、お客様の購買意欲を高めることができるのです。

 大きな販売ステージに多面展示のブロックを作って、おすすめ本の大量販売をねらう考え方は基本的に賛成なのですが多面展示をあまりしていないこの店では一気に変更することは難しいように思います。

旬の作品を中心に関連商品を集めて小さ目の販売ステージの明解性をつくり、お客様の支持を受けて旬の作品の販売数が大きくなれば、自ずと多面展示の方法を取り入れていく機運が生まれてくるでしょう。

まずはエンド平台や小さなテーブルから、商品の属性とPOPのコピーの工夫で販売ステージの明解性を作る。どのスペースでどういう商品を陳列するのかをお客さまにアピールし定着させることが第一歩のように思います。そのための方法を提案しました。