2015年9月16日水曜日

ミニうり坊 単店で1000冊越えをつくる

ノミネート
10月に開始するおすすめ文庫全店フェアは、候補作品のノミネートが8月末に締め切られます。そして9月の上旬に店の文庫担当者を集めて選定会議が行われます。選定会議に選ばれた作品だけがフェアに参加できる仕組みです。

3年目若手女子にも店文庫担当者として選定会議に参加するよう連絡がありました。事前に候補作品のリストが作成され、推薦者の名前も記入してあります。最盛期には100点近くの候補作品が揃いましたが、現状はそこまで多くはありません。

出版社担当者との連携を取った店の文庫担当者にもそれぞれの思惑があり、選定会議では思いのたけをどれだけ伝えられるかが勝敗を分けるようです。出版社推薦と店担当者推薦が重なると選ばれる可能性が高まるとも聞いています。

そうしたことは今では企画に参加しようとする誰もが知っていることですので、1位を狙おうとする出版社は事前に店担当者にアプローチしています。それなりに影響力を持つ店の文庫担当者として、3年目女子にも何社かからアプローチがありました。

候補作品リストを見て、今年はどんな作品が選ばれ、どのようなレースになるのか、店の文庫担当者たちは仲間内で予想もしています。そんな中で、自分のおすすめ作品で第一位を取りたいと、どの店の担当者も考えています。

6月に行われた新書ダービーでは、2年目男子のイチオシ作品が第一位を獲得しています。仲間として普段は助け合って仕事をしていますが、こうした立場に立たされると、ライバル意識が芽生えています。

「自分も第一位を取りたい」
ミニうり坊で切磋琢磨している仲間に、これ以上実績で離されたくはありません。

自分のおすすめ作品は自店の売上が突出して高くなっていて、他の店での実績があまり出ていません。各店の文庫担当者もそれぞれに思惑があるでしょうから、選定会議でどのように反応するか不明な部分もありました。

最終的に出版社担当者との重複推薦があったこと、大手出版社の推薦作品であったこと、自分も積極的に発言したこと、売れそうな雰囲気を作れたことなどから、3年目女子のおすすめ作品は全店フェアに参加することができました。

当店のイチオシ
9月下旬におすすめ文庫全店フェアの作品が入荷してきました。文庫売場の導入部分にあるフェア台に商品を並べました。パネルは本部から送られてきたものを使用し、作品紹介の小冊子を置いて、手書きPOPを商品ごとにつけて準備が完了します。

フェアに参加する作品は全点各30冊入荷してきました。入口壁面の販売ステージを使って見本的な展示をし、メインはフェア台で販売します。ダービー出走作品は1冊1冊を見るとそれなりに売れそうな感じがしてきます。

ダービー出走作品の中から「当店担当者のイチオシ」として1作品を選び、その作品を目立たせるようにして陳列します。何時からこのようなスタイルがこの店で主流になったのかはわかりませんが、当店担当者のイチオシと明記した作品は良く売れます。

イチオシ作品を何にするか選ぶことはそれなりに難しいものです。出版社担当者からのアプローチは沢山あって、中には強引にすすめていく営業さんもいます。
それでも、店の担当者として押す作品は、様々な思惑を排除しながら、担当者自身の責任において選ぶことになります。

『鬼畜の家』はフェア開始前までに200冊以上売れています。出版社担当者におすすめされてスタートした2店舗以外は、チェーン店内ではどこも手を出していませんでしたので、この店の販売数は突出していました。

「当店のイチオシを選ぶなら、やはりこの作品しかないだろうな」
そのような気分を後押しするように出版社からも強い押しがありました。3年目女子は出版社担当者に頼んで200冊を手配し「当店担当者のイチオシ作品」として『鬼畜の家』を強力プッシュすることにました。

全店フェアは静かにスタートしました。同程度に売り伸ばしている作品が多くありましたし、彼女のイチオシ作品も同じような数字で推移していました。そこに、出版社担当者と打ち合わせた200冊が入荷しました。

その200冊で2か所にボリューム陳列を作り、フェアコーナーにも多めに作品を並べました。その結果、それ以降の売れ行きがガラッと変わっていきました。
『鬼畜の家』はそれまでの売れ行きのほぼ3倍以上の数字が取れています。


第一位
6月以来、店の入り口はそれまでとはイメージが変わり、ジャンルを特定しないおすすめ本のボリューム展開のゾーンになりました。

入口のボリューム陳列を見ると、
「なんでこの作品がこんなに大量に積んであるの?」
お客さまに疑問を抱かせます。

店の中に入っていってすぐにあるベストテンコーナーにも並んでいるのをチラ見すると、
「売れている作品」
というイメージが頭に残ります。

通路に沿って進んでいくと店の中のおすすめ本コーナーのブロックに突き当たります。そのボリューム陳列を見ると、つい、手に取ってしまうお客さまが多くいらっしゃいます。

「文庫本ならそれほど高くはないし、買ってみようかな」
お客さまのなかにそういう思いが湧くようになると、大成功です。

「2度見、3度見でその気にさせる作戦」
誰が名づけたのかわかりませんが、この作戦は売上を大きく伸ばす売り方として定着しました。

10月の全店フェアでは、『鬼畜の家』は週売40冊以上が連続していきました。
週売40以上というのは、突出した売上の商品がなければその店の週間ベストの第一位を確保できる数字です。

影響力のある店でこうした売上を作れると、出版社の営業担当も張り切って店を回るようになります。データに裏付けされた積極的な営業は、追随して仕掛け始めようとする各店担当者を後押しします。

ダービーで第一位を獲得するための決め手は「店内第一位の店をどれだけ多く獲得するか」にかかっています。店を回って自社の作品を競合作品に比べてより売れやすい状態をつくることが営業担当の重要な仕事です。

出版社営業マンが「店を回ると売上を上げる魔術」を持っていると、比較的容易に一位にすることができるものです。今回はこの店の突出した売上が良い影響を与えて、ダービーの第一位を断トツの実績で獲得できました。

1000冊越え

10月の全店フェアで「当店担当者のイチオシ」がうまく作用して、『鬼畜の家』は週売40ペースを安定してキープし、月間で180冊程度の実績を作りました。

11月は拡販キャンペーンの準備期間となりますので、全店的には商品の動きは小康状態になります。3年目女子は自店での売り伸ばしのために第一位を獲得したわけですので、売れ行きに合わせてその後も追加注文をしていました。
商品展開を変えず、ボリューム感を維持したお蔭で、ダービー期間の販売数の約8割の状態を維持していました。

そうこうしているうちに11月も月末を迎えるころ、年末商品の仕入れにてんてこ舞いの中、拡販キャンペーン用に250冊が入荷しました。

「えっ、250冊?」
「まさか?」
「そんなに少ないの?」
ミニうり坊のメンバーも500冊は必要だと言っていましたので、そんな驚きの言葉が出てくるような展開になりました。

ミニうり坊のメンバーは次の全店フェアの第一位が決まるまでが拡販期間だと考えていますので、2か月間だけで拡販を終了させるつもりはありません。

普通は予定されている2か月の拡販キャンペーン期間だけしか考えていないようです。そこでの仕上がり率を考えて仕入をセーブするようでは売り伸ばしにはなりません。そのあたりに第一位作品の拡販に対する考え方の根本的な違いがあるようです。

必要な部数を確保するために店長も参加して様々な手口を探り、ようやく追加の部数のめどが立ち、ほっとしたのですが、実際に商品が入荷してきたのは12月10日になってからでした。

12月1日にキャンペーンはスタートしましたが、最初の1週間はそれまでとあまり変わらない売上で終始しました。それでも追加注文が入荷してボリューム感をアップさせたあたりからは狙っていた週売50以上のペースに持ち込むことができました。

キャンペーン期間中の2ヶ月間で400冊以上販売し、3ヶ月目には600冊近くまで実績を伸ばしました。ここまでで発売以来の累計売上が1000冊を超え、3年目女子はミニうり坊の自主目標達成第1号となりました。

連続して1000冊越えをねらう
3月は雑学文庫ダービーです。前年のおすすめ文庫全店フェアで第一位を獲得して、念願の1000冊越えを記録した3年目女子は、次の企画でも同じスタイルで1000冊越えを狙うつもりでいました。

今回は雑学系文庫が対象です。これまでこの店では雑学系の文庫を大量に販売した経験がありません。どちらかというと小説系の方が強い店として考えていましたし、中でもミステリー系はとても強いと自分でも意識していました。

出版者担当者との事前の打ち合わせもあまりしませんでした。選定会議で選ばれたラインナップの中から、自分で気に入った作品を当店担当者のイチオシとして売り伸ばすことを考えていました。

2月の中旬にダービー出走作品の中から自店のイチオシ作品を決めることになり、ミニうり坊のメンバーと相談しました。メンバーの意見は店の状況に合わせて売れそうな作品はビジネス系の作品だろうと言う意見で一致しました。

「この店には20台後半から30代にかけての、上昇志向が強いビジネスマンが多く生息している」
そう発言したのは新書担当でした。彼もこれまで新書の様々な仕掛けにチャレンジしてきましたが、20代から30代のビジネスマンが動いてくれる作品は売上が跳ねると言っています。

ダービー出走作品の中にベビジネスマン向きの作品がありました。しかもこの店の売れ筋商品に当たる「話し方」と「プレゼン」がミックスしてテーマになっている作品です。

この店の周辺に生息するビジネスマンは会社の中で頑張って出世するより、会社を辞めて独立して会社を興す傾向が強いと言われています。

マーケティングや広告などの分野がよく売れていますし、若手のビジネスマンはプレゼン能力を高めることが必要なことだと考えているようです。この作品が一番店の客層に合っているだろうと思いました。

「どこかで見たことがある作品だな。以前雑学ダービーで2位になっている作品だよ」
ミニうり坊で指摘されました。

2度目の1000冊越え
雑学ダービーでイチオシにしようとした作品は2009年にB店で新記録を作った作品でした。奥付を見ると確かに2008年初版発行と書いてあります。

どういう経緯でこの作品が出走作品に選ばれたのかはわかりませんが、「会議で選ばれたのですから売るだけ」3年目女子はそう考えました。

「同じビジネス街の店で売れているし、テーマ的にこの店にも合っているように思う。この作品を押すしかないな」
ミニうり坊のメンバーに話すと、売りましょうというと言う言葉が返ってきました。

「当店のイチオシとして売るので、200冊手配してください」
出版社の営業担当に電話してそういうと、すぐに手配しますと言って、直送の手配をしてくれました。

数日後、商品が入荷しましたので、店の入り口と文庫のおすすめ本コーナーの2か所に大きくボリューム陳列を作りました。すると、すぐにお客さまの反応が変わり、週売50冊を超える実績となりました。

20代の後半から30代の前半のお客さまが手に取っている姿をよく見かけました。データを調べると、男性のビジネスマンが多いのですが、同じ年代の女性もお買上してくれているようです。

翌週は週売70を超える実績がでました。新書ダービーでもこの数字は出せませんでしたので、すぐに追加注文をして商品のボリュームの維持をしました。店の中心客層に合う作品は途方もない実績を作ります。

ここまで強い売上が作れると、もはやダービーでは追いかけてくる作品もなく、独走状態になってしまいます。若手のビジネスマンが多く来店する店では、追随してイチオシにする担当者が出てきて、ダントツの一位で雑学ダービーを制しました。

その後も売上が止まることはなく、拡販キャンペーンでも強い売上を作り続け、4年目に突入した文庫担当女子は2本目の1000冊越えを雑学系の文庫で成功させました。


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