2015年12月2日水曜日

客導線上にボリューム陳列 1

七期生
七期生の活動は、2013年8月にスタートし翌年1月に中間報告会が行われた。めずらしくこの期には25歳の若手営業マンが多く参加していた。中でも入社1年目が4名いて、彼らが中核メンバーを構成した。その他2名を加え合計6名で活動をスタートさせた。

塾の活動はテキストによる講義と、塾生の宿題「私のミリオンセラー計画」を両輪として運営されている。テキストは「売り伸ばしの技術」「囲い込みの技術」「企画を成功させる技術」「ブレイクスルーの技術」の4つの講座がある。

テキストは販売現場からベストセラーをつくることを想定して作成されている。10万部を超えた作品がベストセラーという言葉に一番似合っていると塾長は考えているので、ミリオンセラー計画が提出できない塾生には10万部計画を提出するように言っている。

6人から提出された計画はすべて10万部計画だった。その中で10万部以上を達成できたのは3名で、確率は50%だ。2014年11月時点で最も部数が大きくなっているのは『こころのふしぎなぜ?どうして?』の45万部だった。

この作品がどのように部数を伸ばしていったかストーリーを追ってみよう。ベストセラーづくりの基本スタイルが理解できるだろうと思うから。ただ、あくまでも七期生の活動の範囲内での分析であることを承知しておいてもらいたい。

『こころのふしぎなぜ?どうして?』を引っ提げて塾に参加したのは、入社3年目、25歳の若手営業女子のTさんだった。

彼女が所属しているのは「手帳の○○○○」と言われることが多い出版社なのだが、入社以来、年間の大半を年度版の手帳との格闘に明け暮れていたし、繁忙期になると土日も書店を訪問するようなローテーションが組まれていた。

ルーチンの営業活動の忙しさにかまけて、せっかく入社した出版社の仕事に楽しみを見いだせないでいた。新入生ではないので五月病とは言えないが、目標を見失った苛立ちが心の中にいるように感じる日々もあったようだ。

そんな時期に担当エリアの書店で、あまり聞いたことがない活動があると聞いて興味をひかれた。書店員が出版社の営業マンを集めてベストセラーづくりを目指す私塾を開いているという。

元々都心の店で塾は運営されていたのだが、このエリアの店に異動して、そこで活動を再開するという。店で顔を合わせたら熱心に誘ってくれたので、だんだんと参加してみたいと考えるようになった。

個人授業
手帳の○○○○でもベストセラーは出していたのだが、どうしても周囲の方々の印象は手帳の出版社になってしまう。
手帳だけではなく他にも出版している作品は多いし、ベストセラーも出しているということを業界内でもっと認知してもらいたいとTさんは考えていた。

ベストセラーが作れれば会社としてのイメージを変えることができるだろうと思ったし、塾のノウハウを吸収して、自分の手でベストセラーを作ってみたいという希望を抱き始めていた。

スケジュールが合わなくてスタートしてからの2回の会合に参加できなかった。その穴埋めとして個人授業を受けることになった。

居酒屋で二人だけの飲みながらの講義は微妙な感じもしたのだが、実際にベストセラーづくりの具体例を聞いてみると、彼女自身のベストセラーづくりへの興味は非常に高まっていった。

居酒屋の講義は「売り伸ばしの技術」で、塾長が行った10万部計画の成功例と、ミリオンセラーの傾向分析が解説された。こんなに簡単にベストセラでもあった。

10万部計画のファーストステップは仕掛け売りの拠点づくりから始まる。拠点で強い売上を作ることができないと次のステップに進むことはできない。決め手は一等地での大きな商品展開+パネル&手書きPOPだ。

10万部計画を提出した作品は『こころのふしぎなぜ?どうして?』だ。売れているシリーズの最新刊で、ジャンルは児童書の読み物に分類されていて、この年の7月下旬に発売されたばかりだ。

子どもの素朴な疑問に答えるシリーズの中でも心の問題を扱っていて、内容にも自信があった。この作品は絶対に売れるという思いがあって、自分の力でぜひ売り伸ばしたいと考えていた。

だだ、これまでの営業体験ではミリオンセラーづくりは想像がつかなかった。ミリオンセラーのつくり方を講義で聞くと、確かにそういう風にミリオンセラーは生まれているんだなとは思うけど、ミリオンセラー計画のイメージは思い描くことができなかった。
そんな経緯でTさんは10万部計画を作成して提出していた。


「店頭の一等地での仕掛け売りって、どのような店にお願いすればうまくいくのでしょうか」

「今回取り上げた作品は児童書に分類されているけど、大人の女性にターゲットが広がると爆発する予感がする。内容的にも響くものがあるようだし、とてもポテンシャルが高いように思う。小さい子供がいる30代から40代の女性がメインターゲットとなると思うし、その辺の客層が多い店が拠点づくりには似合っている」

「そういうことでしたら、この店がぴったりですね」
「まあそういうことになるかね…」
「何とかしていただけませんか?」

彼女はとても積極的だったし、最初から狙って営業をしにきているような気分も感じた。小っちゃくてかわいいのにとても大胆だし、意図をもって営業をしていると思った。でも、そんなスタイルは嫌いではない。

「うーん、わかったよ。テーブル1台持ってきてくれたら、拠点づくりの見本を見せてあげよう。特設ステージで売りまくって、影響力のある強い売上をつくるから」
「テーブル1台ですね。了解しました」
「ああ、それと商品を150冊追加で入れておいて。ボリューム感を出して心意気をお客様に伝えたいと思うから」

1点で150冊の注文は初めてのことだったので心臓がバクバクし始めたのだが、Tさんはその素振りを感じさせないように平静を装った。

「かしこまりました。ちなみに今おっしゃった強い売上って、どれくらいの数字を想定しているのでしょうか」
「週売40取れれば成功だと思う」
「すごい、週売40ですか。そんなの今まで聞いたこともない数字です」

「そうなんだ。店の一等地を占拠するんだから、そのくらい売れないと他のメンバーが納得しないだろうし、他の店の担当者に自分も売ってみたいと思わせるには、週間ベストの一位を取るくらいでなきゃ難しいでしょ」
「うひゃー、一位ですか。ありがとうございます。うれしいな。よろしくお願いします」


客導線上にボリューム陳列
10月23日、Tさんはイケヤで買ったテーブルを店に持っていった。少し重かったが、その見返りは充分に感じられた。

店の入り口から女性誌のエンド平台を結ぶ導線上にある2台の新刊コーナーのすきまに、持参したテーブルで特設ステージが設置された。まだ150冊の追加注文は店に届いてなかったが、店の手持ち在庫の130冊を使ってボリューム陳列が始まった。

テーブルに布を敷き、A5版の『こころのふしぎなぜ?どうして?』が8面で100冊以上積み上げられた。1面当たりでは14冊陳列だ。

「まずまずのボリュームだ」
「すごい、自分のところの商品がこんな一等地に、こんな量で積み上げられているなんて初めてだし、とってもうれしい」

Tさんは満足の笑みを浮かべてそう言った。でも商品を積み上げただけでは許してくれなかった。

「次はステージの演出だ」

パネルはTさんが持参したA3サイズのものを使用。早速、特設ステージに置いてみた。商品のボリュームにパネルのサイズがぴったり合っていた。

「いま、いちばん 大人に読んでもらいたい こどもの本」

POPパネルにはコンセプトにぴったりのコピーが使われていた。

「通りかかったお客さまになにげにこの作品を手に取ってもらうためには、書き手の気持ちが伝わる手書きPOPが絶対に必要だ」

二人でそれぞれPOPを書くことになった。店のバックヤードの隅にあるテーブルを借りて5分程度で競作した。

Tさんの描いたPOPのコピー

おとなのみなさん、ほっこりしませんか
昔わからなかったこと、これから伝えていきたいこと
たくさんつまったやさしい本です

出来上がったPOPを見てちょっと文字の線が細いと指摘され、なぞり書きで太くしたらとても見映えが良くなった。

塾長の書いたコピー

今からでも遅くはありません
もう通りすぎてしまった小学生のころのあなたに
プレゼントしてあげてください

おんな目線のコピーとおとこ目線のコピーが揃って、お互いのPOPに満足した。

「こういうPOPのコピーを見ると売れそうな予感がする」

ボリューム陳列された『こころのふしぎなぜ?どうして?』とPOPパネルの両サイドに2枚の手書きPOPをちょっと離して置いてみた。すると、商品、パネル、POPのバランスがとても良いように感じられた。

「これで大丈夫。きっとうまくいく」
Tさんはそうつぶやいた。

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