2015年8月8日土曜日

物語 うり坊とうり坊な人々 21

店ごとの頑張り
前年にブレイクスルーした『月の扉』との同一期間での売り上げ比較をすると、全体では対前年比160%となっていました。もっと大幅に上回っている店が数店舗ありましたが、下回っている店舗も複数ありました。

やはり、下回っている店は陳列の状態が『月の扉』の時と比較すると劣っている印象がありました。

担当者が交代していて前回の商品展開の様子を知らなかったり、他に売りたいものがあってその商品と同じスペース取りだったり、この本は嫌いだと感じさせるほど消極的な展開も見受けられました。

「会社の冠をつけた商品は絶対売らなきゃ」
「全店キャンペーンなら最高の見せ場を作るべきだろうが…」
丸山はそんなふうに考えていましたので、店長を通じて担当者に改善を申し入れました。

とはいえ途中からの改善は彼らには難しいらしく、結局最後まで『月の扉』の販売実績を超えることはできませんでした。

そんな中で、本来ベスト3には入るだろうと思われている店が中位に低迷していました。早速ハッパをかけたら1月以降に頑張りが見えてきました。手製のPOPパネルをつけて商品展開も大きく改善されました。

元々仕掛け売りの強い店でしたのでステージさへ整えばお客さまの反応はすぐに出てきます。1月末には4位まで順位を回復させました。
「最初からやっていれば表彰店にも入ったろうに」
うり坊のつぶやきが聞こえてきました。

自社の冠をつけた商品は最優先で売るべきです。文庫担当としてみれば個人的に売りたい作品はたくさんあるのでしょう。キャンペーンの時期にも売りたい作品があるのかもしれません。
全店一丸となって売ろうとしている時に
「私はこっちを売りたい」
という人はどういうものなのでしょう。
少なくともうり坊が辿ってきた道程を知ればそういうことは言わないと思うのだが…

つぶやき
他社の事例でもよく聞くことがありますが、全社でキャンペーンを始めようとすると、
「うちの客層には合わないから売れません」
そういう理由をつけて売りたがらない書店員がいると聞いています。
実はこれがチェーンメリットの阻害要因になっていることがあります。

チェーン全体で取り組めば、販売実績の規模も大きくなり、メリットもますます大きくなるはずです。特に出版社に対する影響力の強くないローカルチェーンでは、それが大きな力となります。

彼だけが売れるものを一人で売ったからといって何のメリットが得られるでしょう。自己満足に過ぎないように感じます。
命令されるから売るのではなく、今何が優先されるべきかを理解して、
「売るべき時は売るのだ」
そういう決意で取り組んでほしいと思っています。担当ジャンルは基本的に自由に裁量できますが、自由は責任を果たした上で与えられるものです。

今回の拡販キャンペーンでは売上傾向の面で特徴的なことがありました。それは、追加注文が入荷して在庫が増えるたびに売上が上がったことです。

キャンペーン実施中のこの時期は月2回程度の重版があったように聞いていますが、その大部分がこのローカルチェーンに搬入されていました。

12月中に2500冊、3000冊と搬入して、1月にも2000冊、2500冊、2500冊と都合5回追加を投入しました。
追加注文が入荷するたびに在庫は7000冊から8000冊になり、6000冊程度に在庫が減るとまた追加を取るスタイルで総在庫量を維持していました。

このあたりでバイヤー川口さんの強気の仕入が売上を押し上げている構図が浮かび上がってきました。気合が入っているなと強く感じさせる追加注文の取り方でした。
1月8日から13日間連続で200冊超えの売上が続きました。1日の売り上げ最高記録は236冊でしたが、これも追加注文が入荷したすぐ後のことでした。
1月は正月休みがあったにもかかわらず、前月を上回る販売実績となりました。1月という季節性がそうさせたのか、売り方がそうさせたのか今後検証したいと丸山は周囲に言っていました。

拡販キャンペーンの結果
初回搬入の5000冊を含め2カ月間で都合17000冊投入して、12月と1月の販売実績は約12000冊でした。1日平均190冊、1店舗平均340冊という結果が出ました。

店別販売実績
第一位 うり坊高木君
第二位 うり坊鈴木君
第三位 うり坊森山君
第四位 乗換駅の店
第五位 うり坊金沢君

店別では大型店に異動したばかりのうり坊高木君が年末年始の休日の間に大逆転して1位になり、2位はチェーン内一番店のうり坊鈴木が入り、両方とも1000冊越えを果たしています。
ちなみに正月休みに泣かされたうり坊森山はあと数冊で1000冊という、泣くに泣けない販売実績で第3位に入っていました。

賞金稼ぎと命名した高木君はその名に恥じぬ活躍を見せ、『99%の誘拐』『月の扉』に続き、『床下仙人』で3年連続表彰される素晴らしい実績を上げています。
「賞金稼ぎ第一位」
丸山はその称号を彼に与えようと考えていました。

最終的には2ヶ月間で1000冊以上が2店舗、500冊以上が5店舗、200冊以上は12店舗、100冊以上が11店舗という成績が残っています。こんな良い販売実績は予想以上の結果です。

今まで上位に食い込んだことのなかったデパート内の店も今回は8位と健闘しています。前年対比の伸び率が一番高く表彰のネタになりそうです。

その店の文庫担当者の頑張りには敬意を表しますが、よくよく考えてみると、
「権威のあるものにすぐに飛びつく」
「しっかりおすすめすると買ってくれる」
そうした傾向がありますので、おすすめ文庫全店フェア第一位という帯がデパートのお客さまにはお似合いだったのかなとも考えています。


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