2015年8月16日日曜日

物語 うり坊とうり坊な人々 29

広がり
ベストセラーが相次ぎ、新規参入の出版社が際限もなく続く新書の状況にどう対処したらいいのか、担当者には課題となっていました。そこでうり坊の三島が音頭を取り、2006年2月新書勉強会を行いました。

小田急沿線のローカルチェーンでは小型店が多かったこともあって、新書の比重はそれほど大きくはないものの、ベストセラーに対応した販売戦略は、うり坊としてもしなくてはならないものと判断していました。

チェーン店内の一部有力店では、文庫の新刊コーナーと同じように、新書の新刊コーナーも作っていましたので、彼らから新刊コーナーに対する現状認識を報告してもらうことにしました。

丸山はかつてのベストセラーづくりに狂奔していたカッパブックス、ノンブックス、プレイブックス、トクマブックス、ワニの本が最盛期のころの話しをしました。
「今の状況は岩波新書に代表される教養新書の売れ方ではなく、ハウツウものでベストセラーを狙ったかつての時代の状況に似ている。それなりの対応をしないと乗り遅れてしまうぞ」
そんな話をしました。

筑摩書房の七沢さんからは新書の棚の作り方について、ご提案をいただきました。
「かつて新書は岩波、講談社、中公が御三家と呼ばれていました。それが今は、新潮、光文社、ちくまが新御三家と呼ばれているそうです。文春、集英社を合わせて、御三家二卿というべきでしょうか」
「ちくま新書は棚から売れるシリーズです。一、二段しかなくても吟味した商品をそろえれば必ず売れます。住宅街の駅前の店の事例があります。一段しかありませんが、何をそろえるのか、データに基づいて相談させてもらったところ、非常に効率の良い棚になりました」

ちくま新書の編集長のお話しでは主に新書編集の苦労話など、事例を挙げて、面白くお話ししていただきました。

世の流れは低単価なのか、知識の安売りなのか。
なかなか難しい問題をはらんだ新書の状況があります。何はともあれ、現場ではどんな新しい流れにも対応すべきだ、というのが結論でした。

ちくわ会誕生
終了後の懇親会では七沢さんの周りに集まったメンバーが新書の話しはそっちのけで、
「僕はちくま文庫が好きだ」
「私もちくま文庫が好き」
と盛り上がっています。
「何かタイトルを決めて売り伸ばしましょう」
三島が中心になってそんな話しがまとまったようです。

勉強会が開かれたならそれだけで終わりにすることなく、何かで次につながることを言い出して、もうひとつのステップを踏んでしまうのがうり坊のスタイルです。

第一回目の会合は沿線の中核駅の店の近くで行われたようです。そこで森嶋が名付け親になって「ちくわ会」が生れました。その話し合いの場で岡本が
「この本好きなんです」
と言って紹介したのが
『本物の魔法使い』ポール・ギャリコ ちくま文庫
でした。そしてこの作品を売り伸ばすことに全会一致で決まりました。

一人ひとりの作品に対する思いはそれぞれにあるのでしょうが、おすすめする人間の発言の強さが決定要因になることもしばしば見受けられることです。
その場に居合わせた三島、遠藤、村山、などが中心になって、他店にも情報を流し多田野なども絡んで拡販を始めました。

初めてのことですし、仕入部のバイヤーが絡んでいませんでしたので、この拡販企画に参加する店は少なかったようです。それでもメンバーは頑張って、200~250冊前後の実績を上げたようです。

この前後に筑摩書房の人事異動があり、ちくわ会の設立に関わった七沢さんが惜しまれながら担当から外されていきました。チェーン担当は梅野さんに交代しました。

梅野さんの考えでは個人的なつながりも大事なのですが、法人単位での対応の中で関係性を強めていきたいという考えがあったようでした。そこで、第一回の拡販反省会と第二回の拡販銘柄選びには仕入部のバイヤーを絡めたいと仰っていました。
ちくわ会を蔵前で行うことになり、うり坊メンバーも多く集まりと丸山がまとめ役をするようになりました。

蔵前訪問
小田急沿線から蔵前は結構距離があります。そんなことから出迎えていただいた販売促進部長の山田さんは満面の笑顔で迎えてくださいました。
「こんなに遠いところまでわざわざお越しいただいてありがとうございます」
確かに、電車や地下鉄を乗り継いでようやくたどり着いたというのがうり坊の感想だったようです。

山田さんには筑摩書房ビルの上から下まですべてのフロアを案内していただきました。山田さんいわく
「今では珍しくなってしまったのですが、このビルには編集、営業、校正、人事、総務等すべての部門が入っています。出版社がどういうものなのかがすべて見えますので、ご案内いたしましょう」

うり坊は出版社がどういう構造になっているのかを実際に見せていただくことができました。中には著作権の管理スペースもあって、他の出版社からも問い合わせがあると言っていました。

うり坊が注目したのは編集部にあった見本在庫でした。すべての本に付箋が挟み込まれているのを、何気に気付いたうり坊メンバーが質問をしました。
「どうしてあんなに付箋がついているのですか」
「各方面から作品の内容についての指摘があるたびに、その内容を記入して付箋を挟んでおきます。そして、重版のタイミングでもう一度チェックして、必要ならばその付箋を基に修正をかけるのです」
「そういうことだったのですか」
うり坊山森が納得の表情を見せています。

初めて出版社の現場を隠すことなく見せていただき、うり坊メンバーは興味津々で目を輝かせて全フロアを回ってきました。
うり坊も出版社訪問を何度もしていますので、営業部の部署や、会議室、応接室などは経験済みですが、これまで様々な部門に触れ合えるのは本当に珍しいことです。

丸山は社長の年末の表敬訪問にも参加しましたので、筑摩書房の全フロア回遊ツアーには都合三回参加しています。

今回はプリマー新書編集長の松田哲夫さんが会社にいらっしゃいましたので、初めて名刺交換をさせていただきました。

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