2015年8月10日月曜日

物語 うり坊とうり坊な人々 23

準備
「著者と出版社の方々を呼んで、10000冊突破記念パーティをしよう」
社長が仕入部の部長に話しています。

3年連続ブレイクスルーと2か月で11000冊以上、3ヶ月で15000冊に届きそうな新記録を社長は素直に喜んでいました。たまたま予定していたパーティを中止にしたことで予算が取れたことが後押したのだそうです。

部長からすぐに丸山に話しが下りてきて企画作りが始まりました。出版社の方々との交渉は部長に任せ、店からの参加者と総参加人数の調整、パーティの進行表の作成、10000冊突破の経過の発表が丸山の担当になりました。

参加者は祥伝社から10名程度、取次から2~3名、チェーン店内の参加者を15名程度、全部で27~8名の参加人数を想定しました。仕入部長と祥伝社の営業部長との調整で、開催日は3月4日(火)に決まりました。

どのように演出して参加した皆さんに楽しんでいただくのか、企画次第で全ては決まります。丸山はうり坊式の宴会術で皆さんを楽しませようと考えました。
型通りの式次第や挨拶、自己紹介などは必要最低限に抑えて、著者への表彰状と祥伝社社長への感謝状をお渡しする表彰式をメインイベントにして、その時間に一番盛り上げるような配慮をしました。

うり坊の大仕掛けから全店大仕掛けへの展開、3年連続のブレイクスルーの成功は目玉になるはずです。全店大仕掛けの企画を解体して、おすすめ文庫全店フェアを再構築した経緯を皆さんに説明したい。絶対に受けるはずだと丸山は考えていました。

参加者のリストを作成しているうちに、何と祥伝社側も山村書店側も参加者が男性ばかりだと気付きました。男性ばかりの黒の会ではつまらないパーティになってしまいそうです。丸山はうり坊の女性陣に参加してもらうしかないと思いました。
若い女性が3~4名参加すれば少しは華やかさが出てくるだろうし、和やかなムードを作ってくれるだろうと期待したのです。参加要請した女性陣は「よろこんで」と言って参加してくれました。

丸山は今回もパワポにチャレンジして、ストーリーを組み立てながら説明用のシートづくりに励みました。

パーティ
山村書店の本社近くのホテルの小宴会場でパーティは開かれました。30人規模に見合ったちょうどいい大きさの宴会場でした。立食形式で真ん中に料理が用意され、周囲の壁側に椅子が並べられていました。

予定時間が来ましたのでパーティを始めましたが、最初はみなさんなんとなく硬い表情をしています。儀式のような挨拶と自己紹介が続きました。そして、うり坊メンバーの自己紹介が始まりました。

うり坊には宴会での自己紹介の鉄則を伝授してありました。挨拶は1分、それ以上でもそれ以下でもいけない。1分の間に2度笑いを取りなさい。それが周囲を和やかにして、参加者が気兼ねなく楽しめるようにさせるのです。

丸山の挨拶では最初に
「うり坊の長老で、有名人の丸山です」
とギャグを入れて自己紹介が始まりました。それで、思い通りに1度目の笑いを取りました。話しを続けると2度目の笑いは自然にとることができます。1度目の笑いでタガが外れると周りの人たちの反応がとてもスムーズになるからです。

続いた女性陣の自己紹介でもそれぞれ笑いを取ることができて、それまでとは格段に雰囲気が変わってきました。これからがうり坊式宴会の始まりです。
乾杯が終わって皆さんに酒が入って、だんだんとくだけた状態になってくると、和やかな雑談が広がっていきます。

15分程度の歓談の時間が過ぎると丸山の出番がやってきます。パワポの操作は川口さんに任せて、スクリーンの横に立ちました。

宴会が始まる直前にプレゼンの練習をしたのですが、パワポのシーとはほとんどがグラフばかりでした。壁に向かって話している時は、どのように話しても笑いが取れそうにないと思ってしまいました。

それが実際に聞いてくれる人が自分の前にいると、雰囲気はまったく変わってきます。なんとかなりそうに思いました。本番では酒を口に含んだ所為か、口調も滑らかになり、一気にそれまでの雰囲気を変え、笑いと驚きが会場を包む発表のスタイルができました。

うり坊流プレゼンはジャスト20分でした。

丸山の説明が終わると、急に会場の雰囲気は和やかになってきました。初めてお会いする文庫編集長や、文芸編集長が相次いで声を掛けてくださいました。祥伝社の社長も部長もニコニコ笑いながら話しています。

この雰囲気の中で表彰式をしたら、盛り上がるだろうなと誰もが思った通りに、クライマックスを迎えることができました。著者の原宏一さんにはおすすめ文庫全店フェア第一位の表彰状を、祥伝社の社長には感謝状をお渡しし、二人には挨拶をしていただきました。

歓談の時間になると町田の書店員さんのことに話題が集中しました。著者の原宏一先生も
「何せ、断裁された本が彼女のおかげで重版されて、それがきっかけでおすすめ文庫全店フェアの第一位が取れて、ベストセラーの仲間入りを果たしたのですから、彼女には大変感謝をしています」
としきりに言っていました。

「彼女を呼んであげればよかったのに」
山村社長からはそんな話も出てきました。

「ひとりだけ呼ぶのはかわいそうですよ。ちょっと気が引けますし、小さいお子さんがいて、育児休業明けの時短勤務が終わったばかりですから」
丸山はそんな言い訳をしました。

実は彼女が新入社員で店に配属にされた時の書籍売場の責任者は丸山でした。まだ山村書店に移ってくる前のことでした。当時、その店で丸山が仕事の基礎も教えました。

知らない仲ではなかったので、丸山も招待することを一度は考えました。ただ最後にいろいろなことを考慮して断念した経緯があったのです。

『床下仙人』が売れたのはPOPのコピーが良かったからだという説明があったので、原宏一先生としばしPOPのコピー談義をしました。

「これを『おもしろくない』というならば、もう、おすすめする本はありません」
「うずくまって泣きました」
こういう魔法のPOPと言われるものはみんなキラーコピーがついていますねと丸山が言うと、
「私もコピーライターの端くれですが、ああいうストレートな表現はプロにはなかなかできません」
と仰っていました。

突然のハプニングが待っていました。祥伝社の営業部長が3月刊行予定の『ダイナマイト・ツアーズ』を持ち出してきて山村書店の参加者たちに配っていただきました。
事前に話は伺っていませんでしたのでびっくりしました。

「祥伝社もやるなあ」
そんな感想を言っているうり坊メンバーが居ました。
パーティ会場は急きょサイン会場に変わりました。丸山ももちろんサインをしていただきました。本をじっくり見ると、カバーの折り返し部分に著者の紹介欄がありました。

「1954年、長野県に生まれ、茨城県水戸で育つ。現在千葉県在住。1997年『かつどん協議会』でデビュー。著書に『天下り酒場』(祥伝社文庫」『姥捨てバス』『ムボカ』『穴』
等がある。中でも『床下仙人』【祥伝社文庫】は2007年おすすめ文庫全店フェア第一位に輝きベストセラーとなっている」

朝日新聞の『床下仙人』をはじめとした書店発ベストセラー群の広告、書評欄「売れてる本」の記事に続き、またしても全国に行き渡る媒体に山村書店の記事を書き込んでいただきました。

「こんなにしていただけるなんて」
うり坊メンバーが指摘し合って喜んでいます。
祥伝社の方々の喜びが伝わってくるようです。また、彼らの「売らんかな」の精神にも敬意を表します。

最後にお見送りするまで丸山一人がはしゃぎ過ぎていたようで、後から思い出すと赤面してしまいました。
翌日には営業部長からも仕入部長にお礼の電話が来ていたようですし、景浦さんからも感謝のメッセージがメールで届きました。

なごやかで楽しいパーティにすることができて、原先生や祥伝社の皆さんに喜んでいただけたことを、うり坊一同大変うれしく思っています。

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