2015年7月27日月曜日

物語 うり坊とうり坊な人々 10

ノミネート作品
暑い盛りにうり坊メンバーを割り振り4~5名でチームをつくり、スケジュールに従って出版社訪問をしました。そこで次回の全店大仕掛けの候補作品を推薦していただけるようにお願いをしました。うり坊メンバーは日替わり参加でしたが仕入部のスタッフは毎日参加しました。

出版社の文庫担当者は我々の説明を聞いた後で、実物も持ってきて1点1点について詳しく説明してくださいました。
「これはどういう本なのか」
「内容は?」
「装丁の特徴は?」
「なぜこの作品をおすすめするのか」
彼らの説明に一つひとつの作品に対する熱意を感じました。

1日5~6社の訪問でしたから、同席された一人ひとりの熱意に打たれると相当疲れました。彼らの思いを自分たちの力に変えていかなければなりません。

熱意のこもった厳選された候補作品を1社当たり平均3点ぐらい推薦していただきました。また、訪問できずに電話連絡しか取れなかった出版社からも、多くの候補作品がノミネートされました。

うり坊メンバーにとってこの出版社訪問は大成功でした。出版社の現状を現場で実感できましたし、出版社の一人ひとりに対してつながりを強める機会が持てました。若手社員一人ではなかなか成し遂げられないことをうり坊として成し遂げたのです。
また、うり坊メンバー自身にしても、全店大仕掛けに対する強い興味と参画意識を抱かせることができました。

出版社の営業担当と書店の担当者が相互に顔と名前を覚えることで、話がしやすい雰囲気が醸し出され、通常商品の仕入れが上手く回る波及効果もありました。

社内ネットを使って、積極的に候補作品をノミネートしてもらうように案内を載せたら、うり坊以外の文庫担当者からも候補作品が多く集まりました。出版社からの推薦と合わせ、重複推薦も含め候補作品は延べ60点近くになりました。

後は候補作品の絞り込みが残っています。これもうり坊以外のメンバーにも参加を呼びかけ、拡大うり坊会議として行うことにしました。

絞り込み
最終的に候補作品の絞り込みをすることになるのですが、この選定会議が全店大仕掛けの成功と失敗を決定してしまうこともあります。

慎重に候補作品1点1点を検討して、いろいろな切り口で少しずつ絞り込んでいき、最終的には出席メンバー全員の投票で10作品に絞り込みました。

最終候補作品
『彼女たちは存在しない』幻冬舎 浦賀和宏
『日曜日たち』講談社 吉田修一
『月の扉』光文社 石持浅海
『死亡推定時刻』光文社 朔立木
『永遠の放課後』集英社 三田誠広
『彼女はたぶん魔法を使う』東京創元社 樋口有介
『時計を忘れて』東京創元社 光原百合
『人間動物園』双葉社 連城三紀彦
『顔のない男』文藝春秋 北森鴻
『沈黙者』文藝春秋 折原一

光文社、東京創元社、文藝春秋の三社の作品が2点ずつ残っていました。作為的に、あるいは政治的に調整した形跡はありません。この辺が拡大うり坊会議ならではの商品の選び方だったのかもしれません。

出版社推薦と店文庫担当者推薦が重複した作品も残っていました。出版社から厳選された候補作品が多かったこともあり、なかなかの顔ぶれだなと思いました。作品の内容からするとミステリー作品が多く残りました。

「これなら売れそう」
率直な感想はこんな言葉に集約されていました。拡大うり坊会議の面々の気持ちが売りやすさに向かっていて、ミステリー作品を選んでしまったとも考えられます。ともあれ、売りたがり書店員の作家と作品に対する興味の現状を現しているようです。

「経費で三冊ずつ購入しましたので、みんなで回し読みをしましょう」
「作品を読んでお気に入りの作品に投票しましょう」
社内ネットにアップされた文章を見て、決選投票を楽しみにするメンバーが多くいました。

決選投票
最終決定日までに全作品を読み終えるのは大変な作業でした。
「ただいま貸出し中」
となっているとなかなか順番が回ってきません。

9月上旬、文庫担当者や一部の店長を含む31人が一位から三位までを投票しました。
一位票は『月の扉』と『死亡推定時刻』に集中し、わずかの差で『月の扉』が第一位となりました。

投票したメンバーにサンプリングで意見を出してもらうと
「装丁の美しさが魅力」
「都心の店から仕掛けが始まって数店舗ですでに実績が出ている」
「売れる予感がする」
そんな言葉が投票した理由として挙げられていました。

決選投票の結果は、候補作品をノミネートしていただいたすべての出版社の担当者に、すぐにお知らせしました。そして選ばれた作品の光文社との協議に入りました。

光文社のチェーン担当は入社2年目女子の山田さんで、とても可愛らしくて人気のある方でしたので、会いに行くのが楽しみでもありました。販売促進部長を始め数人の方の歓迎を受けて、交渉の席につきました。

山田さんは選考過程でベストテンに2作品が選ばれたこと、そして、決選投票でも第一位と第二位を自社の作品で争ったことをとても喜んでいらっしゃいました。
約1時間の交渉の結果、決定事項の確認を行いました。

1.     初回投入冊数は5000冊、
2.     全店仕掛けの期間は10月1日から11月30日、
3.     9月25にまでに取次搬入
4.     帯なしでの出荷
5.     POPパネルを9月23日までに本部に搬入する


決選投票に参加した文庫担当者が気に入っていた装丁を活かすため、敢えて帯をつけないことを双方で同意しました。また、山田さんに依頼したPOPパネルは三日月をあしらってデザインしてあり、これまた表紙に負けないくらい綺麗なものでした。


全店大仕掛け
2006年10月スタートの全店大仕掛けは記録的な売上となりました。『月の扉』は2か月で7000冊を楽に超え、翌月には10000冊をクリアしました。

特にチェーン内一番店のうり坊遠藤さんは、4月のリニューアル時に獲得した入り口近くの文庫のおすすめ本コーナーを有効に使って売り伸ばしていきました。既存の文庫売場のエンド台を含め店内の三か所で大量多面陳列をしました。

それぞれの場所ごとに陳列スタイルを変え、メンテナンスを頻繁にしていました。そのうちの一か所では多面陳列の半分に帯付きを、残りの半分には帯なしを陳列していました。どちらが本当に売れるのかリサーチをしたそうです。
結果は帯なしに軍配は上がっています。こんなことをして楽しみながら2か月で1000冊を超える販売実績を作り、堂々チェーン内第一位を獲得しました。

都心のターミナル駅の店でも森山君が負けじと張り合って、店内中央通路の仕掛け売りスペースで『月の扉』の大展開を行い、月平均300冊以上の販売実績を作っていました。

入社一年目女子の山森さんは前年に澤口さんが行ったと同じスタイルを継続、ベストテンコーナーを含む3か所展開を実施して有力店と張り合っていました。

賞金稼ぎと命名した高木君は『99%の誘拐』と同じパターンの棚1本『月の扉』尽くしで大きく販売実績を伸ばし、村山君もワゴン2台を駆使して○○の皆さんへと題した模造紙スタイルのポスターを工夫して売り伸ばしていきました。

店のメンバーがこうした取り組みをすると、出版社の営業担当者も黙ってはいません。山田さんは頻繁に店を訪問して販売状況を見たり聞いたり、追加注文をその場で受け付けたり、緊密なお付き合いをしてくださいました。

1位 うり坊遠藤さん、
2位 うり坊森山くん、
3位 うり坊村山君、
4位 うり坊山森さん、
5位 うり坊高木君


夏の盛りの出版社訪問に同行したうり坊メンバーが上位を独占して、彼らのやる気がとても強く感じられた全店大仕掛けになりました。

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