2015年7月28日火曜日

物語 うり坊とうり坊な人々 11


表彰
3ヶ月で10000冊を売ってしまったこの企画の成功は、社内的にも社外的も大きな反響を呼びました。

候補作品選びの段階で落とされてしまった出版社の方々や、最終候補の10作品に選ばれながら決選投票で涙をのんだ出版社も、かたずをのんで見守ると言った表現が妥当なほど注目していましたし、結果の数字に驚きを感じていました。

社内的には販売実績の2年連続のブレイクスルーができたことを評価していただき、社長の肝いりで賞金を出すことが決まりました。どのような形で入賞者を決めるのか議論がありましたが、販売実績第一位と販売効率第一位を表彰することにしました。

販売実績第一位は2か月で1000冊越えをして、第2位に400冊近く差を広げたチェーン内の一番店が獲得しました。店の代表としてうり坊遠藤さんが社長から賞金を受け取りました。

元々最初にこの作品を仕掛けて売っていた店の文庫担当者の川島君も
「俺が発掘した作品だ」
「俺の存在を忘れるな」
という声が聞こえてくるような気合の入った売り方をしていました。
坪数の小さな店で頑張った結果販売効率第一位に輝き、賞金をゲットしました。
販売効率は「月の扉販売占有率÷文庫売上占有率」の式で算出しました。

「規模の小さな店でも頑張って売っていれば表彰されるチャンスはやってくる」
そのようにみんなに感じてもらうこともモチベーション高めることにつながると考えて実行したものです。

記録的な販売実績を喜んだのは当然出版社の方々です。2か月で7000冊、3か月で10000冊という販売実績はめったにないものだと思いますし、何回分の重版に相当するのかわかりませんが、いずれにしてもインパクトの強い数字でした。

店ごとの頑張りを販売実績で評価していただいて、実績に応じてランク付けし、それぞれの店にお菓子の詰め合わせを贈っていただきました。
出版社から現金や金券類を受け取っても、会計処理上の決まりで全部本部に吸い上げられてしまいます。店で消費できるお菓子類は店の担当者にとって最適な贈り物なのです。

理由
その後のうり坊会議で『月の扉』の売れた理由を確認しました。メンバーからは大きく分けて4つの要素があったと報告されています。

1.     美しい装丁が力を発揮した
2.     出版社の協力体制が整った
3.     うり坊メンバーの意気込みが非常に強かった
4.     スペース取りや陳列方法に自信が感じられた

月の描かれた表紙が美しく、30面、40面の大量多面陳列でさらに美しさが強調され、ジャケ買いが多くあったと報告されています。敢えて帯をつけない選択をしたことが良い結果を導きました。
特に女性客の多い店では装丁の美しさは強力な武器となたようです。編集者と装丁を担当したデザイナーに敬意を表したいと思います。

何よりも多くの出版社の方々の協力で、粒選りの候補作品を集めることができました。それがとても大切なことだったように思います。

多くの候補作品の中から決選投票で選ばれた『月の扉』は出版社推薦であり、文庫担当者推薦でもありましたので、出版社の2年目女子山田陽子さんの積極的なご協力をいただくことができました。追加注文の手配もスムーズで、陳列ボリュームが高いレベルで維持できました。

落選してしまった他社の営業担当者も店を訪れた際に、大量多面陳列された『月の扉』を思わず買ってしまった方がいると聞いています。

出版社訪問、回し読み、決選投票等を通じてうり坊メンバーの企画に対する参画意識が非常に高く、前年の『99%の誘拐』以上の商品展開をする店が多かったようです。表彰を巡る文庫担当者同士の競争も熾烈であったと報告されています。

2006年3月以来、『ダ・ヴィンチ・コード』の大量販売を経験し、大量に売るための具体的な方法を実体験しました。そのおかげでメンバーには大量部数に対する怖さがなくなりました。

ベストセレクションコーナーやベストテンコーナーなど仕掛け売りのスペース確保が全店的に促進され、大きなスペースを使うことが可能になりました。店長と相談しながら商品の展開場所をつくれる体制が整ったことは非常に良い影響を与えています。


影響
2006年秋の全店大仕掛けは
「文庫担当者+仕入部バイヤー+出版社」
三者の力が合致して新記録が生まれ、非常に良い成績を収めることができました。

出版社の方々の熱い思いを知り、絞り込まれた候補作品を実際に読んで、自分なりの判断で投票し、納得性が高い形で全店大仕掛けの作品が決まりました。

事前に販売データも充分につかんでいました。最初に仕掛けを始めた店の文庫担当者が発掘して仲間内にだんだんと広まった作品で、今までの全店大仕掛けの実績を大幅に塗り替える新記録をつくることができました。

その後も売れ続けて、翌年6月には1万4千冊を超えました。その時点で出版社の刷り部数は12万冊だったと聞いています。刷り部数に対する売上占有率が11%を超えています。これは驚異的な数字で、ナショナルチェーンの実績のようです。

2006年10月に『手紙』が発売されました。そしてわりとすぐに映画が封切られました。人気作家の東野圭吾の作品でしたので、爆発的な勢いで売れ続け、ミリオンセラーになりました。

『月の扉』は拡販期間がもろに『手紙』とかぶりましたので、ついに一度もベストテンの第一位を取ることができませんでした。

映像化された作品やミリオンセラーになるような作品は、10000冊以上の売上が過去にもありました。メディアの取り上げが何もない既刊本を、自分たちの力で掘り起こして作り上げた3ヶ月で10000冊以上の売上は、それまでには全く考えられなかった初めての体験です。

ちなみに10月、11月の文庫売上ベスト5は
1位 『手紙』
2位 『月の扉』
3位 『3日で運がよくなる掃除力』
4位 『夜のピクニック』
5位 『世界の日本人ジョーク集』
となっています。
新刊ばかりが上位を占拠していて、既刊本は『月の扉』だけでした。

チェーン内一番店の遠藤さんの店では、10月11月の2か月間の販売実績で、『手紙』と『月の扉』の差は9冊しかありませんでした。もちろん『手紙』の方が上だったのですが、これほど肉薄している店は他にはないのだろうと思います。

この期間の遠藤さんの頑張りは尋常ではありませんでした。競合店の撤退もありましたし、そのお客さまのほとんどを遠藤さんの店で引き受けてしまったようでした。他のジャンルも含め店全体が爆発的な売上を記録していました。

「出勤するとすぐに大量商品の品出し、その間に接客が入り、少しだけ売上データを見て、必要な追加注文を手配して、棚のメンテナンスをしたら1日が終わってしまいます。もちろんその間に来店された出版社の方ともお会いします」
「家に帰ると何もする気が起きなくなって、シャワーを浴びて、ボーっとしながら缶ビールを飲んで寝るだけ」
「毎日こんな淋しい生活が続いています」
と飲んだ席でぼやいていた。

「そういう売れている店で仕事ができる人は少ないのだよ」
「売れない店で働く人には考えられないぜいたくな悩みではないのか」
「今は苦しいけど、この時期を乗り越えれば書店人としての力も着くし、そのうち、もっと楽になるよ」
うり坊メンバーはそんなふうになぐさめることしかできませんでした。
確かにそれだけの忙しさは販売実績が証明しています。

『月の扉』の出版社だけでなく候補作品をノミネートしていただいたすべての出版社に販売結果を報告しました。また、社長の年末の出版社表敬訪問にも同行して、出版社の幹部の方々に年間ベストセラーのデータをお見せしました。
その時の話題の中心は、何と言っても既刊本を発掘して売り伸ばした『月の扉』に集中しました。

2007年5月、『月の扉』の著者の新作文庫第3弾が発売になりました。すると
「この沿線で1万5千人以上の方がお読みになった『月の扉』の著者の最新作です」
そんなPOPをつけて販売した店が多くありました。

その後もこの著者の新作が出るたびに積極的に販売しています。自分たちで作家を発掘し育てたような気持ちを持てることは本当にうれしいものです。


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