2015年7月14日火曜日

ストーリーで学ぶ10万部三連発 6

破竹の勢いと頓挫体験
勉強会で検討した作品は11月に発売され、タイトルは『日本人にしかできない「気づかい」の習慣』と決まった。
「日本人にしかできない」というフレーズが強調されると、タイトルにテーマの大きさと重みが加わった。「気がきく」から「気づかい」にキーワードを変えたことも男性の著者に似つかわしい印象を与えた。

装丁も紺色を基調に白抜きの文字のタイトルが目立って、日本人らしさと重厚さを強く感じさせている。本の作りは縦組みにし、想定した30~40台の男性というターゲットがなじみやすく、読みやすく感じさせるように意識して作られている。
ターゲットに合わせた商品にするための心憎い演出が感じられるような出来だった。

書店員は自分たちの意見を聞いて、タイトルを考え直した編集担当者の姿勢を評価していた。そして、タイトルの納得性の高さによって書店員の関心が高まり、事前受注数は非常に大きなものになった。
100冊単位の受注の店が多かったと聞いているが、店頭の一等地でボリュームたっぷりに陳列される書店が多いと、新刊の初速はかなり勢いが強くなる。仕掛け売りの広がりも一気に加速していった。

好調な売上に対応して重版のロットも大きくすることができ、10月、11月の2ヶ月間で一気に10万部を刷ることができた。ひと月あたり5万部を2ヶ月続けるとは、すごい勢いだ。

好事魔多し。
好調に8万部まで刷り増しして、さらに2万部が刷り上がって10万部に到達する頃、取次からSCM銘柄に指定する話しが舞い込んできた。N氏は浮かれた気分で、そのままそれを承認してしまった。
ところがSCM銘柄は小部数を多店舗に送り込むスタイルだ。しかも返品なしの条件で、取次からの自動送本で拡販が行われていて、書店からは注文ができない。言い換えるとSCMを契約している書店は自店なりの仕掛け売りができないことになってしまう。

発売して2ケ月が過ぎようとする段階は、まだまだ仕掛け売りの広がりを作っていかなければいけない時期だ。それが、SCM銘柄に指定されたおかげで、仕掛け売りの広がりをつくる作業が停滞してしまった。
全体の売上も低迷し、増刷して出来上がってきた2万部の納品先が確保できず、宙に浮いた状態で倉庫に積み上げられたままになってしまった。

伝説の営業マンの売り切る技術
困って相談に来たN氏に、伝説の営業マンの売り切る技術の話しをした。
伝説の営業マンは他の営業マンとは一ケタ違う受注数を誇っていた。大量に受注して、一等地でボリューム感たっぷりの商品展開をして、売上を作るための飾り付けをする。これが店頭販促の基本スタイルだった。売り切ることまで考慮して受注するからこそ大量受注が可能なのだ。

最初に商品の量とボリューム感で驚かせて、次に納得させると、つい商品を手に取ってしまう行動に出るのが人の心理だ。また、ボリューム陳列の大きさが担当者の心意気をお客さまに伝えることにもつながっていると思う。

購入したお客さまが作品を読んで気に入ると、買った店と本の良さを口コミで友達や仲間に伝えてくれる。これが広まっていくと良い広告効果に繋がる。こうしたことを総称して伝説の営業マンは「店頭こそ最大の広告媒体」という言葉を決め台詞として使っていた。

自己啓発の棚前に一面だけ積んで、「地味ですがいい本です」というコピーの小さなPOPを貼りつけて、ずーっと長い間売り続けて、5年間で500冊近くまで売り伸ばした作品があった。
POPを貼った本は何年もの間使い続けてきたためカバーの色が褪せてきてしまったが、あえてそれを見本として使い続けていた。ハードカバーで小B6サイズがしっくり手になじむような本のつくり方だった。

小さな本にこぢんまりとした小さめのPOP用紙を貼り、黄色の文字で「地味ですがいい本です」というコピーが書いてあるだけ。ほかには何の情報も記されていない。
このコピーは一方でお客様の目を引くアイキャッチャーの役割を果たして、もう一方で商品を簡潔な言葉で紹介する両方の意味合いを持っていた。これが本と読者をつなぐ魔法のコピーだったのだと考えている。

おすすめを始めて3年ぐらい経った頃、300冊以上の売行きが認知され、出版社の営業マン全員が販売促進をする、売れ筋のおすすめ注文リストの一面にアップされた。そして、拡販銘柄に取り上げられたおかげで全国的に売れて10万部を超える作品になった。

ボリュームを上げると売上は倍加しますよ
『社長力養成講座』という作品の拡販では、伝説の営業マンの言葉がきっかけで1000冊越えをすることができた。
最初は店の入口を入ってすぐ左側にあるビジネス書の拡販スペースで、新書のベストテンコーナー寄りの角に、6面積みの展開で仕掛け売りをスタートさせた。

発売された3月中の一日当たり売上は3.2冊だったが、4月になって、店にやってきた伝説の営業マンに
「ボリュームを上げると売上は倍加しますよ」
と言われて、商品手配をして、在庫量と展開スペースを大きくした。

陳列面数を9面にして在庫数を300冊規模にしたところ、一日平均売上は6.3冊に上昇した。『頭のいい説明!すぐできるコツ』はワゴンの場所を移動して成功したが、この作品の仕掛け売りからは陳列量で売上が劇的に変わることを教えられた。
4月から4カ月連続で200冊以上の売上を記録し、ビジネスベストテンのコーナーでは約3ヶ月間第一位を続けた。
小宮一慶氏の養成講座シリーズはよく売れる作品なのだが、この作品だけは累計では1200冊以上の実績が出て、通常よりも4倍の販売実績となっている。

『超訳ニーチェの言葉』がミリオンセラーになった時には、担当するすべての書店に小さな造花とリボンを店頭での演出のポイントにして、練り上げられたPOPのコピーとともにディスプレイをした。
結果として、プレゼント需要を喚起して大きな売上を作った。一等地での大きな展開と、売れるディスプレイから大きな部数を売り伸ばし、プロジェクトチームを主導して全社的な機運を盛り上げ、ミリオンセラー計画に挑戦し見事に成功させた。

圧倒的な商品力+POP+ディスプレイという三位一体の力で店頭を活性化して、お客さまへの訴求力を強くして、投入した商品を売り切っていく。
売り切ることができるから書店員の信頼感が増し、大きな部数に対する不安がなくなり、次の作品でも大量受注していただける。これが伝説の営業マンの売り切る技術なのだ。



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