2015年6月7日日曜日

書店発ベストセラーのつくり方 1

1. プロローグ

合同忘年会
丸山塾があった12月17日の夜、新宿区の会との合同同忘年会が開催された。出版社の側から35社38人、書店側からは11人、合計49人の参加だった。居酒屋の2Fフロアを借り切って、ほぼ満席状態だった。

薫は司会をまかされのだが、丸山塾に引き続いての参加だったため、事前準備はほとんどできなかった。少し緊張するけど、もうぶっつけ本番でやるしかない。

「大丈夫、のびのびと楽しくやればみんな乗ってくれるよ。そうすればうまく行くから」隣で受付をしている丸山が薫の様子を見て、さりげなく言ったのが聞こえた。

そうかもしれない、と薫も考えた。
楽しくできればいいさ…自分が楽しむことを考えればいいんだ。
今日の方針が決まった。

最初に永島店長に挨拶をしてもらい、出版社代表の挨拶はその時目があったS社の鈴木さんにお願いした。乾杯の発声は塾生を代表してちょっとだけ年を食っている山崎にした。
スピーチを依頼する人はすべてその場での思いつきで決めて、しかもその場でお願いするのが丸山のスタイルだと聞かされ、薫もそれに倣って進行した。
そんな無茶振りにもかかわらず、参加した皆さんがこのやり方に慣れているようで、とっても気さくにお話しをされて、薫自身もとても楽しくなってきた。

ひと通り儀礼的な流れを終えてしばらくご歓談の時間を作って、次のスケジュールを確認しようと丸山のそばに行くと、もう顔を赤くしていた。
〈酔っちゃったの…早すぎるよ、特別企画の結果報告と次回企画の発表があるのに〉

「薫ちゃんとっても上手いじゃない。これで当分司会は任せられるな」
「次は丸山さんの出番ですよ。あと15分で企画発表です。お願いしますよ」
「わかった、わかった。薫ちゃんも今のうちに飲んだり食べたりしておかないと時間がなくなっちゃうよ」
「わかりました。食べさせていただきます」


 企画説明
15分が経過した。
「皆さん、注目して下さい。これから新宿区の会特別企画第三弾の発表を丸山が行います」
薫が紹介すると丸山が立った。

「新宿区の会ではいつも特別企画が発表されます」
前回の企画の総括と次回の企画内容を記入したペーパーを配布して、丸山が説明モードに入った。

前回の特別企画は「この本の装丁はすごい!」だった。企画に参加した店は5店舗。売上1位から5位まで入賞した作品を推薦していただいた出版社の方に、参加した店の中から順番に選んでフェアを開催できる権利を与えた。
このフェアは装丁がすごいと言われる本ばかりが集めたので、かえって陳列がしにくかったと反省している。一冊一冊の装丁の良さをアピールするのが非常に難しかったのだ。売上実績の第一位は「宇宙の話」だった。

次回の特別企画第三弾は「この新書はすごい!」だ。今回は丸山塾との合同企画としたので塾生の店でフェアを行う。塾生が6人なのと何店舗かの店長が来ているので、最低8店舗でフェアを開催できるはず。
今日ここにきている塾生たちに二つの企画書を説明して、どちらの企画がいいか選んでもらった。没になった企画は「一押し!胸キュン小説フェア」だったのだが、選ばれたのが「この新書がすごい!」だ。
売りやすさに心が動かされた模様だが、これも実際にどのような作品がノミネートされるのかわからないので、本当に売りやすいのかどうかは集まった作品を見てみないとわからない。

推薦作品の条件は今まで通りで、自社本ではなく他社本をおすすめしていただく。
作品の発行時期を2009年に限定しているのは、この年に刊行された新書の中の「マイベスト」を選んでいただけるようにしたかったから。
新書はサイズで分類されるものだから、文庫などと同様にフィクションもノンフィクションも含まれる。
本体価格700円以上としたのは、教養新書だけでなくビジネス系でも、ノベルス系でもかまわいという意思表示だ。
どういう作品がノミネートされてくるのか楽しみにしている。

また、今回も推薦文を同時に提出していただく。
これは第1回目から続いているフェアの作品紹介新聞の原稿に使用するため。
「この新書はすごい!新聞」を作成し、お客さまに配布できるようにする。
推薦作品の締切りは1月10日に設定した。1月中旬にノミネート作品の検討会を実施し、役割分担を決めて、商品手配やPOPの作成等実施項目をこなしていく予定。

酔っていると思っていたら、丸山は意外と冷静に話をした。年の功なのか。
〈新書のマイベストか、面白いかもしれない〉
薫は最近読んだ新書を何点か思い浮かべた。うん、これなら選べそうだと思った。




 ハプニング
宴会はその後も続き、ネクタイを鉢巻きにして歌を熱唱する人、俺にも言わせろと叫ぶ人、皆、思い思いに楽しんでいた。

そろそろお開きの時間かという頃に、ちょっとしたハプニングがあった。
大手文庫出版社のS社の女性担当者から丸山にプレゼントが渡された。丸山はきょとんとした顔をしている。予想していなかった展開にびっくりしたようだ。

かん口令を敷いてきたことが実ってB店の有田店長がほくそ笑んでいる。
みんなで「開けて」と催促したら、袋から出てきたのはフリースとズボンだった。今度は「着てみて」との催促があって、丸山が上着を脱いでショッキングピンクのフリースを着た。
皆さんによく見えるように、照れながらもご丁寧に丸山はその場で一回転した。サイズもピッタリだったし、ピンクが思いの外、似合っている。

「2日前に誕生日を迎えて丸山さんも還暦となりました。この年で毎朝ジョギングをしてから会社に来て仕事をしています。体重も相当減らして、今は高校時代の体重に戻ったと自慢されています。見た目ではとても還暦を迎えたなどとは信じられません」
ショッキングピンクのフリースは、還暦祝いの赤いちゃんちゃんこの代わりらしい。有田店長がそんな説明をした。
「どうもありがとうございます。これを着て毎朝ジョギングに励みます」
丸山が照れながらお礼を言った。
涙目なのかもしれない。薫もちょっとだけウルっと来た。

その後、飲み放題の時間が途切れるまで、席を入れ替わったり、動き回ったり、皆さんが楽しく過ごされるのを見て、
「楽しいっていうことは人を集める重大な要素なのかもしれない」
思い付きを丸山に話してしまった。
「企画を成功させる一番の要因は、参加するメンバー全員に楽しさを味わってもらうことなんだよ」
飲んだ席でも一言多い人だと薫は思った。

最後の挨拶を有田店長が行って、新宿区の会&丸山塾合同忘年会は無事終了した。

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