2015年6月3日水曜日

売るための仕組みをつくる

参考資料 テキストVol.4

競合と戦う武器を持つ

書店は立地産業と言う人が多い。エキナカの店を見ていると確かにそう感じることもあるが、ちょっと都心から外れた位置でもそれなりに成功する店もあるように思う。
立地のいい都心の家賃は書店の低い粗利では賄いきれないという声もよく聞くようになったし、集客力のある商業集積の少ないビジネス街の書店の営業は土日にはお客様がいなくなってしまって経営が非常に難しいと聞いている。

90年代になって横浜から厚木に移った時、地方には様々なハンデがあることを感じた。生き残るためには覚悟がいると思ったこともあった。それなりの武器を持たないと集客は出来ないし、評判の店にもなることができない。

厚木では人文社会、理工学と言ったジャンルは地下の売場にあった。地下には階段で降りるしかなかったし、エスカレータもなかった。当時は書籍売り場の責任者だったのだが、担当者が新人だと自分で棚を作って、棚のつくり方を見せることもしていた。
それほど大きな面積があるわけでもなかったのだが、人文書の中でも心理学の棚だけは自信を持って品揃えをしていた。専門出版社の担当者に基本的なことを教わって、自分なりに彼の意見を消化して棚をつくっていたからだ。
ある日、大学出版部の編集者が見に来て褒めてくれた。その編集者が営業担当に店に行って見てこいと言ったとかで、出版社の担当者がわざわざ訪ねてきたこともあった。こんな品揃えができると安定した売上が稼げるようになる。

こうした品揃えの技術も他店との差別化の武器になり、結果的に競合店と戦う武器にもなることを教えられた。この場合他店というのは沿線の中核駅にある店であったり、新宿にある店であったりする。

お客さまに信頼していただくためには何らかの武器を持たないといけない。接客技術をはじめとしたサービスの技術も武器となるだろうが、品揃えの技術を武器にすることが専門店としてのプライドだとその当時は考えていた。
沿線の中核駅にそれなりの坪数を抱えた店なら、電車の始発駅がある都心の店と対等に競う覚悟を持たなければいけないと思う。そのために、たくさんの武器を備えて闘いを始めなければならない。
当然、そんな店と競合する覚悟で仕事をすることが技術の向上にもつながるし、それがお客さまの信頼につながっていくのだと思う。



商品自身が語りかける店づくり

新刊ラッシュが盛んで、ところてん式の商品の入れ替えが頻繁に起きる。二匹目のどじょう狙いや類似企画の氾濫があり、消費需要も枯渇してきて一点集中的な売れ方になり、返品率の悪化が現象として現れた。
横浜から厚木に移った90年代は、同じ会社でも店によってこんなに違うものなのかというのが第一印象だった。商品の動きは遅いし、出版社の営業マンはめったに来ないから、商品情報もなかなか入らない。
特にレインボーネットワークに加盟している出版社は、新刊の事前指定が全く取れず、商品が足りない状態が続いていた。全国で36店舗しか事前指定が取れなくて、そのうち4店をチェーン内の店が占めていたので出版社には文句が言えなかった。
売れ筋の新刊は大型店に集中し、中小、地方の書店の悲哀は激しさを増していく。世の趨勢と同じで、社内格差という言葉を痛烈に感じた。厚木を地方なんだと意識せざるを得ない場面に直面すると、生き残りの戦略を構築せざるを得なくなった。

悩みながら、色々と考えを巡らせて行き着いたところが、情報発信型の店づくりだった。他店ではしていないことをしてお客さまに認められれば差別化できる。そのためにPOPを活用しようと考えた。
店全体でPOPをつけることにして、商品自身が語りかけているように感じさせる店をつくろうと狙ったものだ。
リニューアルを期に従業員全員が参加するPOP勉強会を開催し、POPの書き方の基本を伝授して、全員がPOPを書けるようにした。

既刊本の中から誰も手出ししていない売れ筋商品を発掘して、この店でしか販売していない状態をつくり、オリジナル商品として書店発ベストセラーを狙うスタイルも狙ったのだが、最初はなかなかうまくいかなかった。
一等地での大きな商品展開と、パネル+手書きPOPで、飽きずに、気長に、長く、多く売る。仕掛け売りの評価基準は週20冊以上、月間100冊以上をクリアして、ベストテン上位にランクインする。それができれば成功と評価した。

他の書店でも仕掛け売りが盛んになり、年間3000冊を目標にする店も現れて、仕掛け売り自体も競争の時代になってきた。「多面積み+パネル+手書きPOP」の売り方を日々改善して、売れる仕掛けで販売部数を伸ばすスタイルを追求するようになった。



POPの基本

POPはサイズによってさまざまな活用の仕方ができる。大きなサイズはポスターになるし、看板やパネルとして使うこともできる。用紙や文字の色、絵や写真、デザインなどで季節感を出すことも可能だ、
だから、店頭ではPOPを使って効果的に季節感の演出して欲しいものである。

POPは元々商品に貼り付けるプライスカードから出発しているので、商品の価格や機能の説明が重要な役割としてあった。それが進化して、色や柄や絵を使うようになり、POP自身が人目を引きつけるようなカラフルなものが多くなった。
するとそのPOPがアイキャッチの役割を果たすようになった。
人目を引きつけるPOPをつけることで、数ある商品の中からこの商品に注目して欲しいというメッセージがお客さまに伝わるようになった。
そんなことから、POPの本質的な役割のひとつがお客さまの目を引くことにあると言われるようになった。

プライスカードから始まったPOPは、内容が進化して、お客さまに知って欲しい情報を販売員の代わりに伝えるようになった。
潤沢に販売員を配置しきれない業態では、お客さまに商品を一つひとつ説明することはとても難しい。そんな場合でもPOPをつけておけば、販売員の代わりに商品の説明をしてくれるし、コピーによっては販売員の思いを伝えることもできる。
それを言い換えると、商品自身がお客さまに語りかけるということになるわけだ。

POPをつける上での重要なポイントは、売りたい商品とそうではない商品との使い分けが必要であるということ。
すべての商品にPOPをつけてしまうと、何に注目して欲しいのか、販売員が何を売りたいのかお客さまに伝わらなくなってしまう。だから、売りたい商品を選んでPOPをつけて、その商品に注目してもえるような使い方をすることになる。
また、POPが邪魔になって商品が見えなくなるのは、本末転倒はなはだしいと言わざるを得ない。商品を説明すること、目立たせることがPOPの使命であるので、サイズも含めてPOPの数も考慮しなければいけないものだと思う。

POPの用紙はサイズの大きい方が効果的と言われているが、商品展開以上の大きさにするとPOPが目立って商品が目立たなくなってしまう場合がある。POPのサイズは一つひとつの場面に応じて使い分けすべきだと思う。
通常の販売店では高級品につけるPOPは小さ目の方が良いと言われている。


一枚5分でPOPを書く

一枚のPOPの中にも目立たせるべき部分があり、添え物の役割を果たす絵やデザインもある。だから、それぞれの役割に応じた字体や文字のポイントの大きさを選択して、最適なものにしなければいけない。
文字の大きさに強弱をつけてバランスを取ったり、強調したいフレーズは字を大きくしたり、色を変えたりして一目でわかるようにするのも鉄則だ。

POPの醍醐味は一言で興味を引くキャッチコピーだろうと思う。商品のターゲットの性別や年齢層に合わせた言葉を選び、男性客向けには男目線のフレーズを、女性客向けには女目線のフレーズを使った方が良いと思う。
男性客が70%のビジネスマン向けの店で、女性著者の作品にPOPを書くとしたら、男性の気を引く文章が書けると売れるPOPになるし、女目線で女性客向けに書いてしまうと、誰も手に取ってくれなくなってしまうこともある。

おすすめ本にPOPつける場合は、なぜこの作品をおすすめするのか説明が必要だろうし、へえ、と納得させるような文章が書けるといいと思う。また、商品に対するうんちくやおすすめする根拠は簡潔でわかりやすい文章がいいと思う。
なぜおすすめするのか、誰のおすすめなのかが明快になると、お客さまの購買意欲が高まっていく。
 
POPのレイアウトは○と△と□で構成する。その組み合わせによってバランスの良いレイアウトができる。
レイアウトを考えずにただ文章を書いただけだったり、文字や絵を詰め込んでしまったりすると、誰も見てくれないPOPが出来上がってしまう。
余白を作ることで、見やすく読みやすく理解しやすいPOPになることは多い。余白自身も何がしか語っているに違いない。

多面展示をして仕掛け売りをしている商品につけるPOPは、タイトルを書かないように指導している。
基本的に本の表紙には必ず目立つようにタイトルが書かれているはずだ。その表紙が目に入るように陳列しているのに、POPにもタイトルを書いてしまうと、コピーの文面が何を言いたいのかを隠してしまう恐れがあるからだ。
自分自身が書くPOPには、自分の思いが伝わる文章を最優先に読んで欲しいから、どんな場合でもタイトルを入れることはない。
私の書くPOPは大概の場合3行に分けて書くようにしている。後は余白にするのだが、強調線やワンポイントになる絵を加えて見栄えのするデザインにする場合もある。
3行POPは簡潔な文章になるので、読みやすいし、何よりも作品をおすすめする思いが伝わりやすいと考えている。


POPは手書きが良い

印刷されたPOPはどんなに素晴らしいコピーが使われても、作り物の印象を与えるし、出来栄えとしては空疎な印象を与えることが多い。
手書きの文字には書く人の思いが宿ると言われ、お客さまの感情に直接的に訴えかける可能性が高いとも言われている。
綺麗な字にこしたことはないのだが、味わいのある字がPOPにはもっとも似つかわしいと思う。だから、下手な字でもバランスさへ良ければ大丈夫だと思う。
字が汚いからPOPを書きたくないと言う人は多いが、下手な字でも自信をもって書けば味わいは出てくるものだと思うし、丁寧に書けばバランスの良い字になる。文字の見栄えはバランスが一番大事な要素になる。
手書きPOPはきれいな字を書く必要はないが、丁寧に字を書くべきだと初心者には教えている。POPも数をこなせば必ず良いものが出来上がるはずなので、数多く書いて欲しいと思う。

見栄えの良いPOPの条件としてレイアウトが大切な要素になるのだが、色を効果的に使うことも同じように重要だ。
POPの色遣いの基本は3色と言われている。なぜそうなのか学問的に教えてもらったことはないが、作ったPOPの出来栄えをチェックしてみると、良いなと思えるPOPは大概3色で書いていた。
私が書くPOPの基本の色は紺、緑、赤もしくは黄色だ。紺色と緑色は文章に使うと柔らかみが出てくるので使っている。黒だとすこし固い感じがしてちょっと気に入らない。
赤もしくは黄色というのは色づけのために使うケースが多いし、ほとんど短いセンテンスだけに使う色だ。
強調線や囲みに使う色として使うケースが多い。紺や緑の文字に対し赤や黄色は反対色になっているのでとても目立つ。
      
POPの腕前を上げるには毎日書くことだと思う。たまに書いて良いPOPが書ける人は
ほとんど天才だけだろう。毎日1枚POPを書いていくと、必ずPOPがうまくなるし、書き慣れてくると短時間で完成するようになる。
日々忙しい思いをしている人がほとんどなのだろうから、部屋に籠ってPOPを書くなどということは考えられないだろうし、販売現場にいる人間は短時間で書く必要があると思う。
だから、POPを書く時は1枚5分で書けるように指導している。


 POPコンテスト

リニューアルがらみで、『私がすすめるこの一冊』の企画を行った時に、POPコンテストを実施した。推薦作品を選んで、POPを書いた参加者全員が審査員になって、お互いに評価しあった。
事務局の用意した投票用紙には七つの項目があって、それぞれに気に入ったPOPの作品名を記入してもらった。
    お気に入りナンバーワン 「バットマン究極の悪」
    これは上手い      「バットマン究極の悪」
    これはかわいい     「ねこぢるうどん」
    これは味がありますね  「野はらうた」
    このコピーはすごい   「つい誰かに話したくなる雑学の本」 
    とってもセンスがいい  「バットマン究極の悪」
    とても分かりやすい   「ドラゴンヘッド」
複数回答もOKということにしたし、お気に入りナンバーワンが一番高い評価項目なのかなと判断して、人気投票ベストテンを発表した。そして、入賞したPOPを作成してくれたメンバーを表彰した。
まあ、ある種のお楽しみ企画なのだが、こういう楽しみを付け加えるとみんな結構頑張るようになるものだ。
人気投票の結果は「バットマン究極の悪」が絵をうまく使って、上手い、センスがいい部門も一位を取ってお気に入りナンバーワンに輝いた。

POP勉強会、おすすめ本を選ぶ、POPを描く、人気投票をする、これらすべてを全員参加にしたことで、メンバー全員の参画意識を高くすることができた。だから、この企画が盛り上がって大成功したという風に考えている。
この時は、企画推進委員が仲を取り持ってくれたし、店長がPOP勉強会に率先して参加してくれたことで、自然に全員参加の形が出来上がっていった。
POPを書くのは初めてです…と勉強会の時に言っていたメンバーたちが
「人の描いたPOPを見るのは楽しい」
「自分の描いたPOPの本を買っていくお客さまを見るのはとっても嬉しい」
「POPづくりは大変勉強になった」
「大変だったけど楽しかったです」
と、投票用紙の余白に感想を書いてくれたのが印象に残っている。

この企画は、従業員全員のおすすめ商品と、自作の手書きPOPをショウウィンドーに展示し、フロアごとにPOP付きの商品を陳列してなかなか好評だった。


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