2015年6月8日月曜日

書店発ベストセラーのつくり方 4

4. 薫の計画書

 一人ブレインストーミング
薫は仕事を早めに終えて、店の斜め前の雑居ビルの二階にある喫茶店にやってきた。丸山塾の開催以来、暇ができるたびにこの喫茶店にやってきて、空いてさえいれば必ず同じ席に座っている。
半ば自分の定席となった感のある窓際のボックスシートに座って、柄に似合わず今日は考え事をしていた。

丸山は塾生に宿題を出した。塾に参加しても、ただ講義を聞くだけでは何も身につかない。課題を探し出して、問題解決を図ることが一番いい。
丸山塾的に言えば、売り伸ばしの技術を実践して、ベストセラーをつくる成功体験を得るのがふさわしい。もう一つの丸山塾では出版社の営業マンが「私のミリオンセラー計画」を提出することになっている。

一回目の会合では、考えがまとまらずに何にも言えなかったが、二つの塾に同時参加している自分は何をなすべきか、真剣に考えるべきところだと思う。

今、薫が置かれている立場、したいこと、現状の問題点を無作為にノートに書いてみた。

・薫のノミネートした作品が全店フェアに採用された
・自分のできることは店でこの作品を売り伸ばすこと
・これを他の店に波及させて第1位を取りたい
・1位を確実に取れる方法はあるのか?
・年間1000冊越えの作品を3つつくる課題がある
・山田とは協力体制がつくれそうだ
・山田は積極的に動くし、粘り強い営業スタイルだと聞いている
・山田はダービー向きかもしれない
・全店フェアで1位を取れれば1000冊越え作品は作りやすい
・10万部計画の成功事例がある
・10万部計画のストーリーは理解した
・私も10万部計画をやってみたい
・塾長にはいつでも相談できる
・協力を依頼できる
・塾長ができたことを私ができないはずはない
・いや、私にもできるはずだ

 層別して考える
16項目が記入されたところで、したいこと、できることにピンクでマーキングしてみた。

・全店フェアにノミネートした作品を売り伸ばして第1位を取りたい
・全店フェアで第1位を取って1000冊越えを作りたい
・全店フェアで1位を取れれば1000冊越えはできやすい
・10万部計画をやってみたい
・私にもできるはずだ。

5つマーキングした項目をつなげると自分のしたいことが明確になった。

全店フェアにノミネートして、
その作品を売り伸ばして、
第1位を取って、
さらに売り伸ばして、
1000冊越えの作品を作って、
10万部計画を実施してみたい

これが薫のしたいことだ。

次に、本当に可能なのか、疑問な点は緑のマーキングだ。

・1位を確実に取れる方法はあるのか?
・山田とは協力体制がつくれそうだ
・山田は積極的に動く
・粘り強い営業スタイルだ
・山田はダービー向きかもしれない
・塾長にはいつでも相談できる
・協力が依頼できる

疑問点は7つの項目にマーキングがついて、人に関することに集約されている。それも2人の名前が出ている。山田と丸山がキーパーソンになる。
彼らの協力を取り付けることができれば、問題点は解決できそうだ。

第1位を取れる方法は丸山に聞けば答えが出るはず。
山田は積極的だし、ダービー向きの性格をしている。だから、協力体制は作れるだろうと思う。

必要項目のピックアップ
ピンクと緑のマーキングの項目を並べ直してみた。

・全店フェアにノミネートした作品を自店で売り伸ばして、
・丸山に1位を取る方法を聞き出して
・山田との協力体制を作って
・薫の売り伸ばしを全店に波及させ
・丸山に聞き出した秘策を用いて
・全店フェアで確実に第一位を取る
・1000冊越えの作品にしたい

これで10万部計画のストーリーの第一段階はクリアできるはず。

次のステップは、山田との協力体制から10万部計画のストーリーを完遂することだ。このあたりは丸山の10万部計画の実践記録をもう一度読み返してから、計画書に落とし込もうと思う。
ここまで考えがたどりついたとき、薫はすがすがしい顔つきになって、すでに冷めてしまったコーヒーを飲みほした。
もうひとつの丸山塾の宿題「私のミリオンセラー計画」の作成まであと一息。山の頂上が見えてきた。
薫は勢いよく立ちあがって、さあ、家に帰ろうと独り言を言った。


どうしたらダービーで1位が取れるんですか…丸山が店に来た日に薫は聞いてみた。
丸山は重要と思われる点を指摘してくれた。

・主要店でいい場所を確保する
・主要店の在庫を切らさない
・主要店のボリュームを増やしていく
・POPを工夫する
・ダービーのスペース以外で別展開をしてくれる店を作る
・ひたすら店を回って担当者と話し込む
・追加注文をもらって商品のボリュームを拡大する
・最後の週まで気を抜かない
・過去の事例では最終週の逆転が何回もあった。
・結果として店単位で一番を取る店をたくさん作る

さすがに全店企画を繰り返し成功させてきた丸山の説明は納得できるものだった。
薫は自分の店で売上を作っていくことしかできないから、山田に話して役割分担を明確にしたいと思った。


打ち合わせ
翌日、店に山田が来た。
「この新書がすごい!フェアが全店フェアになったという知らせを受け、参加店分の注文もいただきました。ノミネートに対するお礼と今後の展開について相談がしたいと思って訪問しました」
「いやいや絶妙のタイミングですね」
丸山がリークしたのかな?

もともと山田は二つの店で突出した売上を取ることをねらっていたし、それができたら、全店での展開を本部で相談しようと考えていたそうだ。
それがいきなり全店フェアに参加することになって、棚から牡丹餅だと言って大喜びしていた。

薫は『考える力』の10万部計画を丸山塾の宿題としたと山田に率直に話した。そして、10万部計画のストーリーを話した。

1 仕掛け売りの拠点として自店で突出した売上を作るから
2 全店フェアで第1位を取ることに協力してほしい
3 第1位を取ったら、そのデータを基に他の書店への営業を強化してほしい。
4 そこでも実績が出て、仕掛け売りの店を広げられたら、
5 半五段以上の新聞広告を出してほしい。
6 仕掛け売りの展開が全国的にできたら10万部はできるはず。

営業マン向け丸山塾にも薫は参加していて、そこではテキストの朗読を担当した。だから、10万部計画の内容を理解していた。ほぼ同じ方式で10万部を目指そうとしている山田と協力体制を組みたい。そして『考える力!』の10万部計画を実践したいと強調した。

一番目の自分の店での実績作りは薫が頑張るから、二番目以降のストーリーは山田に頑張ってほしいと言うと、山田はとても喜んで任せてくださいと言ってくれた。

そして、第1位を取るための10項目についても確認した。
ほとんどの項目が山田の仕事になったが、自店での実績作りは薫に任せてほしい。
自店の実績を他の店に行って強調すると一緒に売ってくれる仲間づくりができるかもしれない。その辺の協力体制を確認し合った。
全店で平積みするとマーケティング調査ができる。住宅街にも駅前にも店があるし、郊外にもある。
大きな店もあれば小さな店もある。だから、どの店でどう売れるかデータが取れると、傾向分析できるので営業のターゲットが絞りやすいとも言われていた。

 
薫はさらに150冊の追加注文をして、新書ダービーが始まる前から、自分の店で勢いをつけてスタートダッシュを決めたいと言った。


計画書を書き上げる
山田と打ち合わせをした次の日に、薫はいつもの喫茶店にまたやってきた。計画書をそろそろまとめたいと考えたからだ。

薫は丸山にもらった計画書のひな型の空欄に文章を埋めていった。

目的、
実現性、
組織化、
拠点づくり、
仕掛け販売の広がり、
広告

6つの項目があった。
そして、大まかな半年間のスケジュールに実施項目と目標部数を書き込んだ。
これで完成だ。

計画書を見て、達成する姿を想像できる計画書が良い計画書だと丸山は言っていた。
薫は改めて、出来上がった計画書を俯瞰して眺めてみた。

齟齬はないか、
欠けている項目はないか、
計画の実現性は感じられるか、
自分ではOKだと思ったので、良しとして丸山に見せることにした。



『考える力』10万部計画書

【目的】
個人目標「年間1000冊超えを3本つくる」の一環として、仕組みを利用した1000冊越えの事例をつくる。成功すれば、仕掛け売りのひとつのパターンとして確立できる。
【実現性】
チェーン内の影響力の影響力のある2店舗で拡販し、結果が出たらチェーン内の他の店に波及させ、その後他の書店チェーンにも波及させる方式は実現可能性が高い。
【組織化】
社内でのチーム、プロジェクト等は特にない。
出版社の営業マンとの協力体制で企画を推進する。
【拠点づくり】
100冊展開のA店とB店の2店舗で影響力のある強い売上をつくり、チェーン店内の店舗に波及させ、出版社営業マンと協力して全店フェアで第1位を獲得させる。
【仕掛け販売の広がり】
山村書店での全店第1位の実績をナショナルチェーン6法人(約400店)での法人単位での仕掛け販売を始める。
・地方を絡めた書店法人の会での仕掛け販売取り組みのお願い。
・取次での仕掛け販売取り組みのお願い、
FAX通信による全国仕掛け販売の呼びかけ。
【広告】
全店フェアで第1位を取ったら、全国紙に半5段広告を打つ。
売れていると認識させる広告内容にする。
【スケジュール】
12月末 A店、B店での100冊展開スタート    1万部
1月 全店フェアにノミネート&B店のボリューム強化 
全店フェア用の配本及び主要店への販促     2万部
2月 全店フェアスタート              3万部
3月 第1位帯作成&5000冊一括配本       5万部
4月 全店キャンペーンスタート
主要ナショナルチェーンへの営業開始      7万部
5月 FAX通信吸い上げ
全国的な拡販スタート             8万部
6月 地方主要店&ローカルチェーンへの拡販強化   10万部突破


全体的にはとても良い出来の計画書だ。ただ、全店フェアで第1位を取る為の方策がちょっと甘いかもしれない。
二店舗で強い売上をつくるだけでは弱い。実際の実施段階では細かな部分を詰めていかないといけないだろうと思う。
1位を取れないと、取らぬ狸の皮算用になってしまう可能性もある。
でも、まあ、2位だったとしても、その後のやり方が上手くいけば、10万部は出来るだろうからこれでもいいのかもしれない。
丸山にはこんなコメントをいただいた。


第1位を取るための具体的方策があまり記入されていないのが気に入らないみたいだが、実際の全店フェアでの取り組みは、その場その場で対処しなければいけないことも多くあるのだろうと薫は思っている。

0 件のコメント:

コメントを投稿