2015年6月16日火曜日

斉藤塾 第二講義テキストVol 1 2010

参考資料 第二講義テキスト
囲い込みの技術Vol.1

書店から見た囲い込み
一書店員のおすすめ商品が全国に波及してベストセラーとなることがある。これはずいぶん前から断続的に続いていて、「どの店で、誰に、何を仕掛けてもらうか」を営業戦略のひとつの柱として考えている出版社もあるほど。

仕掛け売りが成功すると書店員はもてはやされる。そんなことから全国に「売りたがり書店員」は激増している。売りたがり書店員は、書店発ベストセラーの発掘を自分の手で成し遂げることを、何よりも大きな目標としている。

誰も注目していない既刊本の中から、お気に入りの作品を見つけ出し、お客さまにおすすめしてそれが大きな成果を生み出すと、その喜びは非常に大きなものになる。

ただ、一人の力はたかが知れているので、アウトプットのスケールが大きくなるチームや組織で行う方が良いともう。。一人で売る時はせいぜい3桁の売上がいいところなのだが、チームで売ると4桁が望め、会社全体の組織で動くと5桁の売上が期待できるようになる。
仲間を組織できれば比較的楽に大きな仕事ができるようになる。どうしたら協力体制はできるのか。

仕掛け売りの好きな仲間が集まって「皆で一緒に売ろうよ」と話したメンバーが、仕入部のバイヤーと手を組み、出版社のメンバーを引きずりこんで大きな成果を上げた。そして、そこに参加したメンバーは企画を成功させるごとに成長していった。

こんなところが仲間とともに仕事をすることの大きな意味合いだと言えるのではないだろうか。特に新人には頼れる先輩を持つことをおすすめする。相談に乗ってくれる、叱ってくれる、学ぶことができる先輩をぜひ持ってほしい。

同じ会社だけでなく、同業他社や出版社、取次に頼れるメンバーがいて、自分のやりたい仕事をサポートしてくれると、仕事はずいぶんと楽に回るようになる。こうした仲間づくりを可能にするのが「囲い込みの技術」だ。

出版社担当者を囲い込め
書店は出版社や取次との良好な関係を構築して、彼らの力を借りることができると、業績を大きくすることができる。特に出版社を如何に味方につけるかは切実な問題だ。

自分のやりたい企画を成功させるためには出版社の方々の協力を得ることが必要だった。そのためにさまざまなことを行ってきた。いずれも、自分の仕事を手伝ってくれる仲間を増やそうと意図して始めたものだ。

書店員にとって出版社のキーマンを知ることはとても大切なことだし、キーマンにつながりがつけば欲しい情報や商品を確保できる可能性が高まる。

出版社にとってのキーマンは必要なものを必要なタイミングでたくさん売ってくれる書店員だろうし、他店に影響を及ぼせる人材が一番重要だと感じているはずだ。お互いにメリットを与えられるような存在になれれば、自然と認め合う関係を築けるようになる。

成長する会社の人脈は世代ごとに受け継がれていく。若い人は若い人同士でつながりを築き、お互いに成長して会社の中で地位を確保できるようになれば、その人脈は連綿と続いていく。

仕掛け売りの好きな若手文庫担当者グループに出合った。当時、彼らの売っていた作品は雑学系の文庫がほとんどで、中途半端なローカルチェーンでも付き合ってくれる中堅出版社の作品ばかりだった。
少しずつ販売力がついて仕掛け売りの規模が大きくなって、みんなの気持ちが「レベルの高い仕事をしたい」と望むようになるにつれて、「小説系の文庫を全店で仕掛けて売ってみたい」「大手の出版社の作品を売ってみたい」と思うようになった。

売りたがり書店員のグループの仕掛け売りから、バイヤーがリードして会社全体で取り組む仕掛け売りの方法が確立していく。その過程で、大手出版社を巻き込んで彼らを仲間に加えることが、他のメンバーにはできない自分の仕事だった。

3ヶ月で1万冊以上販売したことが出版社との関係強化に大いに役立った。大手出版社との関係が改善され、かつては考えることもできなかった、2千冊、3千冊での本部一括仕入れができるようになった。

出版社訪問
従来、拡販の企画では特に説明資料を作ることなく、口頭で概略を説明して済ませてきた。だが、大手出版社を仲間に引きずり込むことを考えたとき、それなりの仕込みが必要と判断して、説明が要する企画のときには必ず企画書を作成することにした。

それなりの企画書を用意して、企画の説明に伺いたいと申し出ると、大概の出版社は歓迎してくれた。人脈を利用した個人プレイの関係から、正式な企画書を作って説明に伺うことによって、会社対会社の正式な関係のかたちで企画を提案することができた。

相手の心に響く企画書を持ち込み、真摯なスタイルで説明することができると、それなりの成果を受け取ることもできる。

企画書を媒介としてなすべきことや要望が伝わり、お互いのメリットを確認できれば、企画の推進者、あるいは協力者の立場になってくれるメンバーが必ず現れる。そうしたメンバーの後押しは企画を成功に導いてくれる助け舟になることが多い。

文庫の企画を推進する活動では出版社訪問が重要な役割を果たした。パワーポイントで企画書を作成して、事前に原稿入りの企画書を渡しメンバーに読ませ、出版社の方への説明役を任せた。

元々ブレイクスルーを繰り返してきた文庫の全店大仕掛けを、一度解体して新たに再生した新企画はそれなりの出来栄えだったし、企画そのものの新鮮味も充分に感じられる内容だった。

説明役は訪問した出版社ごとに変えていったのだが、1日5~6社の説明をかわるがわる実施したことで、参加メンバーは企画の概要を細かく知ることになり、企画への参画意識が高まって、その後の活動に自然と力が入るようになった。

新人メンバーのたどたどしい説明に、最後に補足説明を自分がするスタイルで理解を深めることを狙ったこともあった。

企画の応援者を募る
出版社訪問では、企画への参加要請とノミネート作品の提供を主にお願いした。自社の商品を詳しく知る出版社の担当者は、自社の商品の素晴らしさを強調しながら熱弁をふるうことが多かった。

ノミネート作品を何にするかというお話では、出版社の社内から何人もの方が出て来た。
『へえ、こんなにたくさんの人が関心を持っているんだ』というのが、訪問メンバーたちの率直な感想だったと聞いている。

訪問メンバーの間で反響が大きかったのは、配本や重版を決める販売部の方々の熱意に驚かされたこと。彼らはそれが飯の種なのだから、当然、自社本については詳しいはず。普段は社内で仕事をしていて、店を訪問して書店員と会うことはない。だから、つい思いのたけをぶちまけてしまうのだろう。

そんな雰囲気が感じられて、熱い言葉が多く感じられた。彼らのパッションに触れると疲れが倍増することもあるし、それがそのままやる気に変わっていくこともあった。熱弁がよみがえって最終候補作品の選定に大きく影響したこともあった。

企画の説明のために出版社を訪問すると出版社の興味を引く有効な手段となった。もちろん企画書の完成度や企画そのものの面白さが伝わることが重要だったが、販売実績でブレイクスルーができたことが最も大きな決め手になった。

記録的な売上を目にすると彼らは最も強い反応を示し、次回の企画への参加者がどんどんと増えていった。そうした結果として大手出版社の囲い込みがようやく可能になったと判断している。

夏の暑い盛りに1日5~6社訪問するのはとてもハードだったし、訪問スケジュールの調整、最短時間で移動できるルートの発見もなかなか難しいものなのだが、ぽかっと空いてしまったすきま時間に、冷房の効いた喫茶店に入って、仲間とおしゃべりするのもまた楽しいものだった。

出版社訪問には見込みのありそうな新人を必ず誘って連れていった。出版社訪問は集団で出かけるので、中に新人が混ざっていてもたいていは歓迎される。出版社の社員は自社の商品は詳しいはずだし、そうした方の知識はたくさん吸収すべきだとも思う。

新人にとって出版社訪問は大きな勉強の機会になることは請け合う。多くの新人にチャンスを与えるためにも、人数も回数もなるべく多く、毎回新人を引き連れて出版社に訪問する機会を作るようにしていた。

社内の若手を囲い込む
管理職になって,毎年新人が自分の部署に配属されるようになったとき、3年目までの一人前プロジェクトの一環として、取次訪問や出版社訪問を組み込んでいた時期もあった。相手によって受け入れのスタイルは様々だが、その違いが新人の興味を大いに刺激した。

知識が蓄積されて、仕事の流れに順応していくことができるようになったタイミングで、
商品を作っている出版社がどういう場所で、どういう環境で仕事をしているのか体感させると、彼らの中に変化が生まれる。

新人にとって出版社はとても興味深いものだろうし、訪問した出版社には親近感が湧くことも自然な流れだ。親近感が湧けばその出版社の商品に対する手のかけ方も自然と変わってくる。

自分の周りの与えられた環境の中でしか思考のできない人は大きな仕事はできない。周辺の人材と交流を図り、離れた地点にいる人と接すると、考えもしなかったことに遭遇することもある。

そうしたときに人間の真価が問われる。未知との遭遇が人の器を大きくしていく。そういう機会が多ければ多いほど、中でも成功体験が多ければ多いほど、新人の成長スピードが速くなっていく。

新人に一緒に外に出る機会を与えると、同行した人間に対して仲間意識がはぐくまれる。自分もこのメンバーの一員なのだという意識を持たせられるから、彼らを自分の仲間に囲い込むことが容易になるし、自分の企画の積極的な応援者に仕立て上げることもできる。

自分の企画を応援してくれる仲間を作ることができれば、間違いなく成功させるチャンスが大きくなる。仲間を増やすことができれば、企画の推進組織が大きくなって、アウトプットを大きくすることにも繋がっていく。

納涼会
文庫担当者の拡販では、担当者が持ち寄ったおすすめ商品の中から拡販商品を決めていたが、出版社訪問をして候補作品を出版社からもノミネートしていただいて決めたら、とてつもないブレイクスルーができた。

翌年もう一段ステップアップしなくてはと考えて、さらに強く出版社を巻き込もうと考えていた。そのために、秋に行われる企画のため、夏の間に店担当者や出版社の営業担当者を一堂に集めて説明会を開こうと思い立った。

ただ説明会だけでは面白くないので、季節性を考慮して、ビールを飲んで楽しみながら企画説明をしようとしたんだし、飲み会だと人数が集まりやすいような気がして、7月だったので納涼会という名前にした。

出版社の方にわが社で働くメンバーを知ってもらうのも重要なことだと考えていて、両者を結びつける意味合いもあった。ただ、人を集めて説明会だけをするのも気が向かなかったし、お酒を絡めると人は胸襟を開きやすいと考えていたので納涼会にした。

実はもっと深慮遠謀もあった。うがった言い方を許していただくと、『出版社が特約店を作って書店を組織化するように、納涼会をきっかけにして、企画を成功させるために出版社を組織化しよう』という考えが根っこにあった。

文章を書いて正式な招待状の形にして出版社に送ったら、参加してくれた出版社は22社で、ほとんどの文庫出版社を網羅することができた。複数メンバーが参加した出版社もあったので、出版社から27人、わが社の26人と合わせて53人が参加した。

なかなか盛会だった。ちなみに会場内は禁煙だったが、ベランダ部分にテーブルと椅子が置いてあって、そこで喫煙することができるようになっていた。喫煙者は自然とそこに集まって、飲み物や食べ物をそこに持ち込んでいた。

建物の外で月が見える場所だったので、夏の月の夜の納涼会が楽しめるようになった。その席ではベテランと若手が混在していたが、いつの間にかボーリング大会をしようと盛り上がって、翌月に実際にボーリング大会が開催された。

この年はよくボーリング大会をした。出版社との付き合いで合計5回も行っている。まあ、こういうことでも彼らとのつながりは強めることができる。性格的にお祭り好きなのでしょうかね。

新年会
文庫の新記録が現実味を帯びてきた頃に新年会は企画した。納涼会以来出版社との関係は大変親密になったたし、文庫の全店フェアをみんなでがんばって売ったご褒美に新年会を行うことにした側面がある。

納涼会では参加者に半額以下の会費を出させていたが、12月の後半にみんなの頑張りを見て、つい、『文庫の全店フェアで1万冊を突破したら新年会は無料にしてやる』と言ってしまい、後で上司を説得するのが大変だった。

この時、集まったのは出版社から25社36名、店の文庫担当者が29名、本部スタッフと取次担当者が5名で合計70名だった。60名くらいは予想していたが、これほどの人数が集まるとは思わなかった。

多く人数が集まるということは、企画に対する興味が少しずつ高まっていると考えることができる。予定していた会場では狭くなってしまったので、中二階のスペースも使わせてもらってようやく人数分の席が確保できた。

会場が広くなっても司会はマイクは使わない。思いが伝わる肉声が基本なのだ。おいしい料理とお酒の合間に、動き回るメンバー。立食パーティではなかったが、ほとんどが席を立って移動しながら名刺を交換して、どこが誰の席だか分からなくなった。

納諒会も新年会もお開きの前に『ひとこと言わせろコーナー』を設けている。ここでのやり取りも面白い。『何か言いたい人』と司会者が叫ぶと、言いたい方は挙手をして司会が指名して発言が許される。
つまらない発言だと、途中でも『ありがとうございました。また、どうぞ』と言われてしまう。それでも、『へえ、何それ』とか、『いいじゃん』『それでどうするの』などと、なるべく話に茶々を入れ、ボケと突っ込みのある楽しい会話にしていくよう努力をした。

納涼会や新年会を実施するにはもうひとつの理由があって、普段、訪問されることがめったにない店の担当者にも、色々な出版社の方々と出会う機会を作ってあげたいと考えていたから。

「名刺をたくさん集めなさい」
「一人でいる方を見たら話しかけなさい」
「仲間うちだけでかたまるな」
「君たちにはめったにない機会だから出版社の方々といっぱい話をしなさい」
「陽気に楽しく騒げ」

始まる前に出席者に指示しておくと、会は自然と盛り上がった。

会をつくって組織化
2007年の5月頃のこと。バイヤーとして担当するビジネス書の売上が、既存店ベースで対前年実績を上回ったり下回ったりを繰り返していた。文庫のブレイクスルーは夏の暑い最中の出版社訪問から始まりまったので、ここでも出版社の力を借りようという考えにたどり着いた。

1社だけを相手にしてもビジネス書のブレイクスルーは難しそうに感じた。やはり複数の出版社を同時に味方につける必要がある。そんなことから、会をつくって組織化しようと考えた。そして、でき上ったのがビジネス書の会だ。

まずは、ボーリング大会の招待状を書くことから始めた。ボーリング大会は2名参加のチーム戦にした。チェーン担当以外のメンバーも参加してもらうことで、より関係性を強めることができるのではないかと考えたからだ。9社に案内を出して、翌日が結婚式だという担当者を除いて8社が参加してくれた。

ボーリング大会当日、上位入賞者の景品を持ち込むことを忘れてしまった。そこで急遽参加した店長の店でのフェア開催の権利を景品にすることにした。1位から順に成績発表をし、表彰される方の指名でフェア開催店が順次決まっていった。

フェア開催の権利を与えたことで会場は非常に盛り上がりを見せた。そして、表彰式が終了したところで、ビジネス書の会の立ち上げを宣言した。全員、唖然としていたようだが、これをきっかけにしてビジネス書ダービーが始まった。 

ビジネス書の会に参加したメンバーが自社のおすすめ商品を1冊持ち寄って、
「今こそこれを読め!」
というテーマでスタートした企画がビジネス書ダービーだった。

この企画は非常に反響が大きく、我もわれもと参加希望の出版社が出てきて、その後参加出版社を増やして15社となった。ビジネス書ダービーは年2回実施し、2回目からは第1位作品に「第Ⅰ位帯」をつけて拡販をするようになった。

ビジネス書出版社グループとの連携が良くなったおかげで、仕入れが上手く機能するようになり、売上が対前年を上回るようになった。好調を維持して、既存店ベースで16ケ月 連続対前年を上回ることができるまでに業績を回復させることができた。

ビジネス書ダービーは評判が高く、参加希望出版社がその後も増えていったので、企画がグレードアップした段階で、どの出版社でも参加できるオープン参加の形式となった。

C地区の会
出店の半年後、予定の売上の確保が難しくて厳しい状況が続いていたが、何か面白いことをして社員の士気を盛り上げようと考え、単品の売上でチェーン店内第1位の作品を作ろうと皆で話し合って拡販に取り組んでいくことにした。

売り伸ばしにも出版社の協力を仰ぐことが不可欠なので、出版社担当者にご案内を出して、C地区の会を立ち上げた。そこに集まって頂いたメンバーを中心に拡販のスタイルを作ろうとしたものだ。

第1回目は2009年2月12日に行い、出版社が30社36人、当社のメンバーが6人、合計42人が参加した。当社のメンバーの自己紹介ではスピーチの間に2回笑いを取る条件をつけて、和やかで楽しい会となった。

この回も基本は飲み会なのだが、その席で特別企画を発表した。テーマに合わせて他社の作品からおすすめ本を出していただきフェアを開催する。売上上位の作品推薦者に、フェア参加店の中から店を選び、その店でのフェア開催の権利を与えた。

自社の作品をおすすめることができない他社本のための企画なのに、12社のメンバーが参加表明して、店からも3人が推薦作品を出して、15点のフェアを実施した。この時の企画のテーマは「おすすめ時代小説はこれだ!」だった。

C地区の会を通じて、大手出版社やビジネス系の出版社の担当者の方々が多く集まってきたので、コミュニケーションがよく取れて良い関係性が作り上げることができたし、チェーン店内第1位の作品が数多く生まれるようになった。

書店が出版社を囲い込むと情報が容易に入手できるし、新刊の事前手配や追加注文など商品確保がしやすくなる。その結果、品揃えが良くなるし、出版社の販売実績が上がっていき、出版社内のランキングも上がっていく。

日常的に情報交換が行われ、お互いの意思疎通が図れることから、あらゆる面での協力体制が出来上がる。良好な関係性が築ければ出版社にとっても書店にとっても、お互いがやりたいことがやりたいようにできる環境が整っていく。


囲い込みの技術ではお互いがメリットを享受し合う関係づくりが重要だ。自分が良い思いをするだけでは長続きしない。出版社、取次、書店の3者が良好な関係性で結ばれれば必ずいい仕事ができる

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