2015年6月10日水曜日

書店発ベストセラーのつくり方 7

7. イチ押しキャンペーン

キャンペーンまでどうつなぐ?
薫はいつもの喫茶店にやってきた。ダービー終了後の『考える力』の商品展開をどうするか考えるためだ。今日はあとで山田も来てくれることになっている。

売り伸ばしのために何かうまい手はないものか、山田が来るまでに計画書を作った時のように考え方を整理して、気付いた点を書き留めていった。
 
 ・新書ダービーでは大接戦で第1位を取った
 ・2位とは僅差だった
 ・翌日の売上が入ると逆転されていた
 ・B店では『考える力』がダントツの1位だった。
 ・2位とは大差がついていた
 ・第一位を取ればベストセラー街道まっしぐらだ
 ・4月からキャンペーンがある
 ・キャンペーンでは第1位帯をつけて拡販する

この要素の中で3月中に売りにできるものにピンクのマーカーをつけ、使いにくいものに緑のマーカーをつけた。
ピンクのマーカーがついたのは4つあった。
 ・新書ダービーでは第一位を取った
・B店ではダービーの20銘柄断中トツの1位だった
 ・2位とは大差がつている
 ・ベストセラー街道まっしぐらだ

こうした言葉をまとめて整理してみたら、パネルを作る上での考え方がまとまった。

山田がやってきた
ちょうどその時山田が店に到着した。ウェイトレスにコーヒーを頼み、おしぼりで手を拭いて一息入れたころ、今日この店で考えたことを話してみた。

「新書ダービーを見ていただいた方や、実際に商品を買って読んでいただいたお客さまに結果報告をしたい。その際に『考える力』が第一位になったことを強調すれば、売れている空気感を醸し出せるのではないか。すると、もっと売れるかもしれない。そう考えたんです」
「それはいいアイデアですね」

「4月から始まるキャンペーン期間まで何もしないのも変なので、3月中も拡販は継続したい。だからこの時期は結果報告パネルで売っていきたいと思います。ぜひ協力をお願いします」
「かしこまりました。パネルづくりは任せてください」
「当店の第一位であることと、全体で第一位であることを強調するのもいいと思います。『1ヶ月で122人の方にお読みいただきました』なんでいう数字を入れたコピーもいいのではないかと思います」

「そうですね。売れているということがわかるということはとても大切なことですよね。お買い上げいただいたお客さまの人数をPOPで表現するなんて気づきませんでした」
「前に丸山が、『この店で500人のお方がお読みいただいています』といコピーを使ったのを見たことがあります。それでまた売り伸ばしができたと言っていましたから効果があるのではないかと思います」

「考え方はよく分かりました。すぐに作ってお持ちします」
これで3月中の店での拡販案が固まった。

「ところで薫さん、今日はこれから何か予定がありますか」
「いえ、別に予定はありません」
「それならちょっとお食事でも行きませんか。第一位を取れて、5000冊のキャンペーンも決まりましたし、ちょっとだけお礼をさせてください」
「あら、うれしいことを言ってくれますね」
「ちょっと歩いたところに気のきいた店がありますので行きましょう」
「はい」

喫茶店を出て300メートルほど歩いたあたりのビルの9階にこじゃれたレストランがあった。二人は入口に待機していたウェイターに窓際の席を案内された。

「料理はコースで頼みますので、メインディッシュを魚にするかお肉にするかだけ決めてください。それに合わせてお酒もお任せです。楽しんでください」
「女に料理を選ぶわずらわしさを感じさせないのは男としてすごい。うれしいです」

薫は思い切りおいしい料理とそれに合わせて厳選されたおいしいお酒をいただいた。その上、山田との笑いあふれる会話にもいい気分にさせられた。突然行われたふたりだけの祝勝会に薫はとても満足した。

 キャンペーン開始
3月5日、丸山と山田が会って拡販キャンペーンの打ち合わせをした。その時に非常に感謝されたと丸山が言っていた。
予定通りに5000冊で拡販に入る。第1位帯のデザインは山田と丸山が相談して決めると言う。山田は拡販キャンペーンという言葉に違和感を覚えると言い「イチ押しキャンペーン」にしたいと言ってきた。

それ以外に、出版社の上層部から電車広告をしたいと申し出があったらしい。
第1位を取れたことを会社全体で喜んでいるらしく、これから広告会社と打ち合わせをしますと楽しそうに言っていたそうだ。

3月27日。『考える力』が300冊入荷して、4月、5月の2ヶ月間のイチ押しキャンペーンが始まった。
3月中はダービーが終わって、キャンペーンまで空白期間が生まれ、店ごとの足並みがなかなか揃わず、全体では低迷した売上だった。

「流石に3月末に第1位帯をつけた5000冊が新たに投入されると、電車広告の効果もあって、毎日100冊以上の売上が続いて、ようやくイチ押しキャンペーンらしくなった」
丸山がこんなふうに言っていた。

『考える力』は新しく作ったパネルの効果もあって、B店では3月も100冊超えをキープしていた。12月下旬から仕掛け売りを初めて、全店キャンペーンに入る前にすでに累計売上は300冊を超えていた。

今までのケースでは、第1位帯を巻いてボリューム陳列をして売ると、一段と販売実績が上がることが多かった。
そこで今回のキャンペーンで、薫は2ヶ月で300冊超えを狙った。
テーブル一台展開にプラスして、新書の拡販スペースでも場所を確保し、新書売場のエンド台でも4面積みをした。
全部で22面になった。仕入部から回ってきたパネルはインパクトのあるA2サイズに拡大して使用した。

手書きPOPも2枚使ってにぎやかな陳列にした。そんな商品展開のおかげで、4月になって1日17冊売れる日も出てきた。
丸山が持ってきてくれたステッカーを店の入り口の自動ドアに両面貼って、それらしい雰囲気を作ったのも効果があったようだ。

4月の末になると『こころのコーチ』が入荷してきた。5月、6月は雑学ダービーの第1位作品の全店キャンペーンがある。
ジャンルが違うから重なっても大丈夫と考えていたのだが、新書と雑学系の文庫では対象客層が近いので、お客さまがどっちを買ったらいいのか迷ってしまったような感じを受けた。『考える力』の売上も少しトーンダウンしてしまった。

3月の1ヶ月をかけて戦った雑学ダービーの第1位は『こころのコーチ』だった。
これも薫が事前に仕掛け売りをしていた作品だったので、薫自身も両方売らないといけない気持になって、何となく中途半端になってしまったのかもしれない。

4月の『考える力』は186冊の実績だった。それが5月になると129冊になって、かろうじて300冊超えという自主目標はクリアでき、5月を終わって薫の店での累計売上は645冊となった。

キャンペーン終了
6月1日。拡販キャンペーンの終了を受けて、「この新書がすごい!全店フェア」の総括を丸山が社内ネットにアップした。
それによるとトータルの実績は2ヶ月間で5000冊を超えていた。文庫と比べると単価が高いので、売上金額に換算すると文庫の企画よりはるかに上を行く。

新宿地区の会の特別企画から急遽作り上げた全店フェアにしては、他の全店フェアと比べて同等以上の売上が取れたことを丸山は喜んでいた。この実績なら店の担当者レベルでも納得してもらえるだろうし、次回にも繋がるだろうと思う。

店別ではA店がトップで、F店、B店と続いていた。薫はE店をクリアして3位に入賞したことをとても喜んだ。
自分がおすすめしてノミネートした本だし、当然店別の売上でも1位をねらっていたのだが、店の売上規模の違いもあるので仕方がないだろうと思う。

B店が1位を取れなかったのは、山田の全店フェアへの取り組みが上手くいっていたからだろう。他の店への積極的な営業があって売上を上げたからこそ、全店フェアで1位が取れたのだから。

後は気長に、飽きずに、あきらめずに、1000冊越えをねらう仕事が残された。自身の課題1000冊越えまであと三分の一の道のりだ。これまでの仕掛け売りのパターンから言えばまず間違いのないところだろう。

1月下旬に全店フェアが始まってから、この半年間でチェーン全体の売上が7000冊を超えた。この数字から判断すると、50万部は間違いないと丸山が言っているし、山田もとりあえず10万部は超えたと言っていた。

丸山塾の課題である書店発ベストセラーづくりはできたと報告しよう。

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